Angel

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全て | 日々の日記 | 小説
July 4, 2016
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カテゴリ: 日々の日記
    『 もう一度、君と~ 幼き約束 ~』4



 学校の敷地内にある部室に辿り着いた。

「泉先生。遅くなってすみません。」

「いえ、私も先程来た所です。お疲れの様ですが大丈夫ですか?」

「はい・・・・・・。先生の稽古の時間を減らしたくはありませんので、今日も宜しくお願いします。」

泉先生。個人的な茶道と華道の師匠であり、学校でも部活動でお世話になっている物腰柔らかな話方をする先生。渡先生が凛とした雰囲気なら、泉先生は、清涼さを思わせる様な穏やかな先生なので、何かと相談してしまう。

「もうあと数カ月で誕生日ですね。」

「はい・・・。」

「正式に次期家元としての仕事が増えるのでしょう。学業もあるのに、大変ですね。」



緊迫した雰囲気の中、先生は立てたお茶を彼女に差し出す。

それを受け取り、飲む。

「しかし、今のご時世で高校を辞めるなんてことをするでしょうか?」

「家元はそう望んでおります。母もです。ただ、私はもっと勉強がしたい。それに、結婚なんて、まだやっぱり考えられないのです。」

素直な気持ちを曝け出せる。この時間を失いたくないと思う。

「そうでしょう。結婚とは、本人の意思も非常に大事で、生涯を添い遂げる相手が自分の意にそぐわぬ相手じゃ困りますね。家同士の問題であると言いますが、私は貴女の様な熱心な生徒を失うのは、寂しく感じます。」

先生のストレートな表現が、嬉恥ずかしく、擽ったく感じる。

その言葉に隠された意味を彼女は知らない。彼女はまだ、幼きシンデレラ。

「香月先生が一番有力ですが、私は彼のことを好きになれないのです。会長や先輩も兄の様な存在で恋の相手として見れないと言うか・・・・・・」

“香月家の御子息達。哀れだと思われる。特に、守さん、葵さんは本当に早苗さんのことを好いておられるのに・・・・・・”

「・・・・・・泉先生。もう一度逢いたい人っていますか?」



「まぁ、恩師や亡き人とかですね・・・・・・」

「そうなんですね。・・・・・・先生、香月先生達には絶対内緒にしてください。」

香月兄弟に知られたくない話のようだ。

「・・・・・・私は、せめて誕生日が来るまでに、幼き日の初恋の君に逢いたいんです。」

「逢ってどうなさるんですか?相手の方は貴女のことを忘れているかもしれないんですよ。」



“彼女は、私や他の者達がどんな感情を抱いているかなんてきっと知らないだろう。触れたい。傍にずっといたい。他の誰にも渡したくない。こんな劣情を抱いているなんてきっと考えもしないだろう。”

「それでも、逢いたいんです・・・・・・約束したんです。“また、逢おう”この指輪に誓ってくれた。毎年、彼の姿を捜しても未だに現れない。今年は、最後の年だから、一目でいいから逢いたいんです・・・・・・」

純粋で真っ直ぐな瞳。見えない敵に嫉妬が収まらない。

「指輪ですか?」

「子供のおもちゃの指輪。それでも私にとってはたった一つの宝物。」

お茶を立てながら、心の穏やかさを装うが、心中穏やかじゃない。

「そんなに想われる方は幸せ者ですね。さぁ、早苗さんも立ててごらんなさい。」

師として振る舞い、いつもの稽古を続ける。

逃げ出したいけど、彼女にこの想いを知られる訳にはいかない。

“君が好き。そんなこと口が裂けても言えない。目の前に居るのに、君は他の誰かを想う。”





 snowの日記
茶道と華道の先生を出してみました。
早苗の恋の行方はどうなるやら。
お中元が届いたようで良かった。今年はネットで選んだ。厳選大変だった。





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Last updated  August 28, 2016 10:50:59 PM
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