それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

お姫様の悪者退治





「さあ。 行きましょう。」

坂本さんは、たくさんの資料を手に

私を笑顔で促した。


「はい。 お願いします。」

二人で、私の研究チームの部屋に向かう。


「ここ、変な人が多くてびっくりしたんじゃない?」

お昼の時と、同じ質問をされた。


でも、坂本さんは派遣社員なので

「はい。 朝から驚きっぱなしです…。」

と、正直に答えた。


「ねえ、明日、お昼一緒にどう?」

「え? いいんですか? ぜひお願いします。」

「じゃぁお昼に、仕事以外のこといろいろ教えてあげるね。」

「はい。」


私は、とても嬉しかった。

今日のお昼のような、孤独な思いをしなくて済む…。

明日のお昼が、今から楽しみになった。


話しているうちに、私の研究チームに到着した。

私は自分の椅子に、坂本さんは近くの椅子を引き寄せ

それぞれ座った。


ちょうどその時、あの七三男がやってきた。

「コピーは?」相変わらず無愛想だ。


私が答えようとした時、坂本さんが代わりに答えた。


「田中さん、今から彼女に仕事を教えるところなの。

 急ぎのコピーなら、自分で行って下さい。」


そう言うなり、さっと私の机を開けた。

取り出したのは、「図書館」と書かれたカードだった。


( ああぁぁ…。 ここにあったのかぁ…。 )


トウダイモトクラシ である…。


「はい。 これがカードですから。」

坂本さんは七三男にカードを差し出した。


すると七三男は、「坂本さんにはかなわないなぁ。」

と、素直にカードを受け取り行ってしまった。


(坂本さん…。 か…かっこいい…。)


同じ様に私の姿を見かけたホクロおじさんが

不機嫌そうに、私の席に来た。


そして坂本さんは、ホクロおじさんが何か言おうとしたのを

遮って、こう言った。


「広沢さん、彼女、広沢さんの書類を持って、

 泣きそうになりながら、私の所へ来たんですよ。

 これは、山中さんのハンコが必要なので、

 今すぐには、処理できませんから。

 それに、今日来た人に無茶なこと、言わないで下さい。」


坂本さんは、かなり強い口調だった。


( こんな怖そうなおじさんに、そんなこと言って大丈夫…? )

私は、ハラハラドキドキしてしまった。


…が、広沢さんもまた「山中さんが戻ったらよろしく。」

と言い残し、おとなしく引き下がって行ったのだった。


私は、悪者を退治してもらったような気分だった。


「坂本さん、スゴイですね…。 驚いちゃいました…。」

私は、素直に感想を述べた。


「二人とも以前は同じチームだったし、私は5年もここにいるから

 みんなの性格も、対応法も、身に付いちゃったのかな。」

そう、笑いながら答えた。


「ご…5年ですか?」 私は、驚いてしまった。


( 私なんて2時間で辞めたくなったのに…。 )


坂本さんは、私の気持ちを見抜いたかのように

話を続けた。


「ここの研究所に来る派遣の人はね、すごく極端なの。

 1日で辞める人と、長年働く人…。

 あなたの前任の人は、7年働いたのよ。

 そしてその後、後任の人が来たんだけど

 1日で辞めちゃったの。

 そして次の派遣の人も1日で辞めちゃったのよ。

 だから、磯野さんは、このチームでは4人目の

 派遣社員っていうわけ。」


「前任の人は、ここに7年もいたんですか?

 おまけに私の前に2人、しかも1日で辞めてるんですね…。」


私は、休憩室で山中さんが、「辞めないでくれる…?」

と言ったセリフを思い出していた。


2人続けて、1日で辞められたのでは

そう言いたくもなるだろう…。


( 私は、どっちになるんだろう…。 )


坂本さんが、マニュアルを準備しているのを見ながら

ふと、そう考えた…。





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