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美しい世界



予備校に通うコウジは勇気を振り絞って、ノリコを誘った。

ノリコは17才で最近入ったママスアンドパパスのアルバイトだった。

コウジの誘いに聞こえない振りをした。

マスターはノリコにバイトの面接で、こういった。

「ノリちゃん!家は恋愛は自由だけど、気を付けるんだよ!男はさぁ、俺も含めて狼だからさ!」

ノリコはバイトの時はいつも、素顔を隠す為に度の強いメガネをかけていた!

「なあ、ノリちゃん、聞こえているんだろう?」

コウジはカウンター越しに、サンタモニカサンドを頼んだ!

あー、ノリちゃんと、行ってみたいな!サンタモニカ!ノリコはくすっと笑った。

「コウちゃん、サンタモニカが何処にあるか、知っているの?」

コウジは「サンタモニカでも何処でも、ノリちゃんと行くの!」

コウジは駄々をこねる子供の様だった。

マスターは笑って、コウジの肩をポンと叩くと、「ちょっと、コウジ、店番頼むは!」

と言うと、下の偕の洋服屋のママを口説きに出掛けた。

コウジは、マスターが出て行くのを確認すると、紙ナプ
キンに何やら書きはじめた。

「ノリちゃん、気が向いたら、電話くれよ!」

それは、コウジの電話番号だった。それから、3日後ノリコは、カバンの中に閉まってあった、紙ナプキンが気になっていた。

何でコウジは私なんか誘うんだろう?

ノリコは女子校でも、どちらかと云うとクラスでも目立たないぱっとしないタイプだった。

それと云うのも、小学生の頃からかけている厚いガラスのメガネのせいでノリコは何事も控えめだった。

「あまり期待するの辞めよう後でショック大きいから。でも、ドライブぐらいいいかも!」

ノリコは、家族がいない時にこっそり、勇気を振り絞りコウジの家に電話をした。

「もしもし、あのー、明石と申しますが、」

と電話の向こうで

「あ、コウジだけど、ノリちゃん?」

ノリコは、何を話たらいいか、心臓が飛び出しそうだった。

「夢みたいだよ!ノリちゃんが電話くれるなんて!」

ひょうきん者のコウジは、話続けた。

「今週末、横浜まで、ドライブに行こうよ!俺ノリちゃん家まで、迎えに行くから、待っててね!」

一方的にコウジは話すと電話を切られた。

ノリコは有無を言わずドライブに行く事になった。

どうしよう!何着て行こう?

ノリコにとって生まれて、初めてのデートだった。

                   つづく。




コウジはノリコからの電話を切ると、頭を抱えた。

「俺、免許はあるけど、車が無いんだよねー。困ったなー」

取り合えず、友達に車を借りるか、オヤジに頭下げるしか無いよなー?

友達の順一に急いで電話をした。

「順一!!一生のお願いだから、お前の車貸してくれない?」

順一は冷たかった。「お前ねー、合宿免許のお前に貸す車

無いよ!!お前この間ドラム運ぶのに、アツシの車ボコボコ

にしたばっかりじゃん!!大事な車貸せないよ!!」

泣きたい声で順一に頼んだ!!

「いいアイデアあるよ!!レンタカー借りたら?」

そうか、その手があったか!!今更、オヤジには頼めないし

次の朝、高校時代のクラスメートがレンタカー会社に就職

したのを思い出し、社員価格でレンタカーを確保した。

日曜日の朝一番で、僕はノリちゃんの家の近くの公園で、

彼女が来るのを待った。

ノリちゃんは、かわいいサマーセーターにバスケットを持ち

やって来た。僕はノリちゃんがバックミラーで家から出て来るのを、確認すると、取り合えず心を落ち着かせた。

僕は車から降りて助手席のドアを開けた。

「姫!!お待ちしておりました。」ノリちゃんは笑いながら

車に乗り込んだ。

ノリちゃんは、「コウちゃん、テープ持って来たんだけれど
コウちゃん、今日はコウちゃんにプレゼント!!」

と、一本のテープをコウジに渡した。

それは、ノリコがセレクトした、ユーミンのテープだった。

僕らは埠頭を渡る風や、中央フリーウェイ、を聞きながら、

横浜に向かった。

ノリちゃんは、相変わらず度の強い、いつものメガネを

かけていた。

                   つづく。




僕は信号待ちで、ノリちゃんの横顔を見ながら、青信号で、

我に帰った。(やっぱ、ノリちゃんは正解)

近くで見るノリコの横顔は目が大きくて、ちょっと不二家の

ペコチャンみたいにほっぺたが、薄っすら赤いのだった。

元々、痩せていてスタイルもいいし、

まだ、誰も発掘していない、ダイヤモンドの原石を

見つけた様なコウジは嬉しさを想像した。

高速道路はひたすら、ノリちゃんに嫌われない様に、

安全運転で、左車線を走った。

横浜までの道のりは昨日家で、地図をみながら、予習した。

とおりだと自分を落ち着かせた。

「ねー、ノリちゃんお腹空かない?お昼何が食べたい?」

ノリコはにっこりと微笑んだ。

「コウちゃんの口に合うかわからないんだけれど、コウちゃん、サンタモニカサンド好きでしょう?ちょっと作って
みたんだぁー!!」

コウジはとても嬉しかった。(ひょっとすると?俺に惚れたかなぁ?)

「マジー!!ご馳走様です!!すごくうれしいよ!!」

コウジは車を山下公園の脇に停めると、氷川丸の近くの公園

のベンチで、ノリちゃんの手づくりのサンタモニカサンドを

食べた!!近くには、ローラーブレードを楽しむ若者や、

犬の散歩をする人、パントマイムで、時間の止まったままの
ピエロを演じる大道芸の若者など、色々な人がいた。

僕らは、高校時代の話!!友達の話!!好きな音楽の話!!

ママスアンドパパスのマスターの話など、楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行った。

「ノリちゃん!!港の見える丘公園に行こうか!!」

ここは、親友の順一から教えて貰った場所だった。

「へー、港が見えるのかなぁー!!」ノリちゃんの横顔は、
嬉しそうだった。

僕らは、山下公園脇に停めてある車に乗り込み、

Bandoホテルの脇から元町に入り、そして山の頂上に

港の見える丘公園はあった。

丁度、夕闇も迫る時刻だった。僕は車を降りる前に彼女にあるお願いをした。

「ねー、ノリちゃんって、目結構悪いの?」コウジはノリコに聞いた。

「乱視が入っているから、ぼやけて見えるの!!」

「俺、ノリちゃんのメガネ外した顔見たいなぁー?」

コウジの言葉に暫く沈黙が続いた。

「でも、外歩けなくなっちゃう?」コウジは空かさず、

「僕がノリちゃんの目の変わりになるよ!!」

コウジはそう言うと、車を降りて助手席のドアを開けた。

「大丈夫!!ほら!!」コウジはノリコの手を握った。

二人は手をつなぎながら、ノリコはコウジの少し後ろを歩いた。

いつの間にか、公園を夜の闇が包み込んでいた。

「ほら、ノリちゃん海が見えるよ!!」空には金星が月の近くで輝き出していた。

港は街頭にオレンジ色に照らし出されていた。ベンチに座りながら、僕らはその風景を眺めていた。

「あー、何て美しい世界なんだろう!!コウジ君には、わからないかもしれないけど、オレンジ色がぼやけて、万華鏡を見ているみたい!!」

僕にとっても、この風景はキラキラと輝いてぼやけて見えた

僕はノリちゃんの瞳を覗きこんだ。

ノリちゃんの大きな瞳に僕は吸い込まれそうになった。

ノリちゃんは、瞳を閉じた。僕はノリちゃんの瞼に軽いキスをした。

そして、夏は終わり僕はノリちゃんと同じ風景を見ていた事に気づいた。

僕もノリちゃんと同じ美しい世界を見ていたんだ!!

そう、僕はメガネがあの日から、必要だと気がついたのだった。(笑)
                 終わり。



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