tomorrow

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老人と薔薇


彼は仕立ての良さそうなコートを着て、たった一本のビロードの様な赤い色の薔薇を透明のセロファンの中に大事に抱え電車に乗っていた。

その姿はじっと見つめていると、40年位前にタイムスリップした彼の姿が見えてきた。

薔薇の似合う彼女に彼は飽きもせず、薔薇を家に持って帰るのが仕事で、彼は薔薇のとても似合う彼女の事をとても愛していた。

「今日も仕事の帰りに、いつもの花屋で買ったんだ。えっ?キザだって?君にこんな事しか出来ないから。」

彼は頭を掻きながら、そう言った。

彼等はいつからか、一緒に暮らす様になったが、結婚する事はなかった。

彼女は体が弱く、

「いつあなたに迷惑かけるかわからないから、結婚出来ないわ!」

男はそれでも彼女と暮らせて満足だった!

それでも、友人は彼に興味半分で質問をした。

「君達はなんで結婚しないの?もう結婚したっていいじゃない?」

彼は答えた。

「君は婚姻届と云う名の紙に永遠の愛を誓えるのかい?僕は何処の神にそれを誓えばいいのかわからないから、毎日薔薇を彼女に送る事にしているんだ」

彼は少し照れながら

「彼女程素敵な人に逢った事が無いんだ。」友達は飽きれ顔で言った。

「いつまで、続くやら!」

そして幾つもの季節が過ぎ彼も彼女も歳をとったが、彼の彼女に対する気持ちは変わらなかった。

いつからか、彼女の恐れていた通り、彼女は病院で過ごす事が多くなった。

彼は仕事が終わると、いつもの花屋で薔薇を買い彼女の枕元に薔薇を飾った。

彼女の病室で彼女が息を引き取る時いつの間にか彼が毎日持ってくる薔薇でいっぱいになっていた!

彼女は彼に「ありがとう。」と一言別れを告げた。

今日も深夜の電車の中彼は彼女にいつもの花屋で赤いビロードの様な赤い薔薇を買う。



僕は君を今でも愛している。。


とても楽しかったよ君と出会えて。


                    終わり。


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