tomorrow

tomorrow

働くと云う事。




僕は、毎日働き続けた。

昼間は大学に行き、夕方から、ガソリンスタンドのバイトで遅くまで働き家に着くと、午前0時だった。

週末は朝から、油にまみれて、働いた。 おかげで、学生としては、学費を払ってもいい収入だった!

と云うのも、オイル交換や洗車や水抜き剤など売ると売り上げの一割貰えるシステムになっていた!

当初、お店側もそんなに売れると思っていなかったらしい。

確かに、始めは順一も売れなかったが、いっしょに働いている、通称ケンさんは、50代半ばの背の低い、ガッツ石松に似たおじさんは、客が来ると、とにかく何でも売った。

順一は、ケンさんのその光景を見て、自分の出来る事を考えた。

まず、順一がやった事は、客の顔と車を覚えた。

車と、お客さんと、勤務先の会社、家族構成、現金なのか、

会社の請求なのか?

大体、二週間位で覚えた。「お兄ちゃん良く働くね!!」

その、おじさんはいつも、自動販売機で缶コーヒーを、奢ってくれた。

「そういえば、○○さん、お子さん大きいんですよね?」

もちろん、順一はこのおじさんの事は知らないし、興味も

さほど無いが、あてずっぽで、質問をしているのだが、

生活の知恵で、こう質問すると、必ず、色々な事をしゃべってくれる!

順一は、そのつど、聴いているフリを悟られない様に聞き、

なるべく、その話に関連つけて、商品を勧めるのだった。

「○○さん、それじゃ、一日疲れたでしょう?あ、車の

エンジンも、暑いですねー!!僕も喉渇いたけど、車も、

喉渇いたみたいですよ!!ほら、ラジエターの液減ってる」

(と言って車を揺らしてみる)

「ね、○○さん、補充しておいた方が安全ですよね。」

すると、おじさんは頷く!!順一はポケットに入れていた、

補充液をすぐに補充した。

こうして、順一は、3ヶ月もすると、一日仕事をしている、

ケンさんと夕方から、仕事に入る順一と、売り上げは、

ほとんど、互角になった。

順一は10トントラックのオイル交換には、手こずった、

速く、確実にこなさなければ、売り上げは落ちる!!

しかし、車が大きいので、車の下でオイルフィルターを外す

のには、骨が折れた!!

また、ある時には、トラックのバンク修理が出来ず、悔しくて、涙を見せた事もあった。

学生の順一に、物を売る喜びを教えてくれたバイトでもある

人を相手にする商売は、相手が何を考えているのか、解からないから、怖いと思ったが、

実は、情報からアプローチして行くと云う事を、

ケンさんから学んだのだった。

ユミコと逢う時は、いつも笑われた!!

ツメの間は石鹸だ洗ってもなかなか落ちなかった。

そんな時、ユミコは「順一、体壊さない様にね。」と云うと

僕の手を優しく、そして強く握ってくれた。

唯一、順一が心休まる瞬間だった。

                  つづく。





DOWN TOWN BOY (10) 06月11日(金)


この年頃の男の子の話題は、いつだって決まっている!

順一も同じで、自分の車が欲しかった。

週末は、父親が決まって使う為、なかなか、ユミコと逢えなかった.

バイトがお互い休みの日にこっそり、合鍵で出掛けようとすると、メーターの中で黄色いエンプティーマークが点滅していた。

父は順一が、深夜にこっそり車を使うのを知っていたのだ。

ある日、ユミコとファミレスで話した。

「なあ、ユミちゃん、俺車買おうと思うんだけど、どんな車がいいかなぁ?」

すると、ユミコはニコニコしながら答えた。

「私は、小さくてかわいい車がいいなぁ?順一、あまり無理しないでね!お金とか大変だし、お父さんの車私好きだから。」

本当にユミコは、僕にとってもったいないぐらいの彼女だった。

当時、ちょっとした、自営業の家の息子だと、大学まで自分の車で通っていた。スカイラインやセリカやソアラに、レビンにトレノ、クラウンなど、ハイソカーブームで当時、300万以上の車を、親から買ってもらう、友達を正直羨ましく思った。

ある日バイトが休みの日に、順一はテレビでナイターを、
ビールを飲みながら見ている父に相談をした。

「父さん、あのー、相談があるんだけれど?」

父はビールを飲みながら、順一の話に耳を傾けた。

「何だ?改まって!」父はグラスに注がれたビールを一揆に
飲み干した。

「あのー、俺、車が欲しいんだけれど!」

そして、順一は話を付け足した。

「60万円位の中古車を買おうと思うんだけれど、もちろん
 自分で買うつもりなんだけれど、ローンの保証人になって
 貰えないかな?必ず、払うから!!」

順一は、父に頭を下げ頼んだ。

車はしっかり、高校時代の後輩の修理工場に出物があると、
云う事で、英樹と下見をしてきていた。

毎日、毎週、カーセンサーや、ホリデーオートなどで、値段の相場もしっかり、頭に叩きこんできていたので、その車
が買い得な物である事は、順一にはわかっていた。

「駄目だ!」父は一言順一に告げた。

「何でだよ!買ってくれとは言って無いよ!」順一は食い下がらなかった。

その後、母と父で口論が始まった。順一はいたたまれなくなり、夜の街へ家を飛び出していった。

行く宛ても無く、英樹の家に行った。

英樹は言った。「お前の家は、家族みんなが感情的になるからすごいよな!」あきれ顔で、英樹はショート ホープを
吹かした。

僕は、貯金を叩いて、ローンの保証人に後輩の修理工場の
社長になってもらい、車を手にいれた。

オンボロ車だったけれど、僕にとっては、こいつがあれば、
何処へでも行ける自由の翼を手に入れた様な気分だった。

                   つづく。



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