むしろ疑問が深まったので、原文を確かめようと思いましたが、あいにく英語を見ると頭がクラクラしてしまいます。そこで、やむなく、掛川恭子さんの「完訳」とある講談社の『赤毛のアン』を読んでみました。結論を先に言えば、こちらは確かに完璧な訳でした。当該部分は、「あんまり。トーマスさんのところにいた最後の年に、ちょっとだけ」となっています。確認のため、我慢してこの部分だけ原文を見ても、 I went a little the last year I stayed with Mrs. Thomas.
で、トーマスおばさんの家にいた「last year」最後の年に、「a little」ちょっとだけ、でした。調子に乗って、その後の原文を載せれば、 When I went up river we were so far from a school that I couldn't walk it in winter and there was a vacation in summer, so I could only go in the spring and fall.
と、アニメ同様に春秋に学校へ行ったようなことを言っていますが、たぶん行けなかったものと思われます。冬は自然条件によって通えず、夏は学校が休みなので、春秋しか通えないのだから、通う必要がない、と子守に専念させたい大人に言われていたことを示唆しているだけと考えるのが妥当でしょう(この点、Anneの身の上話を聞いたマリラの感想に示唆されています。掛川訳「こき使われ、貧しさに苦しみ、だれもかまってくれなかった暮らしだったのだ。アンが身の上話で言葉にしなかった部分を読みとり、真実を見抜く力が、マリラにはあった」。あくまでも、学校に通ったのは、「a little」なのですから。
と、掛川訳は、まだ始めしか読んでいませんが、村岡さんの方が、児童文学として位置づけを意識した『赤毛のアン』で、おそらくポプラ社版は、それを簡略化されていると見なせるのに対し、掛川さんの方は、特に児童向けに意識して書かれたわけではない『Anne of Green Gables』という小説を、忠実に訳出しているものと見なせそうです。