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カルーア啓子さんサイド自由欄
そんなことを思いながら、渡辺にお祝いのメールを送り、計画書の作業をしていると、職員がやって来て、面会者が来ているから応接室へ行くようにと言われた。三木の居場所も仕事も秘密であり、今まで面会者などというのは一度もない。そもそも面会の許可が下りること自体が不思議なことだった。
応接室のドアを開けると、耳の尖った女性と室長がいた。
「やっと、会えた。」その女性は甲高い声で言った。
三木は耳の尖った女性を何人か知っているが、どの女性もよく似ていて区別がつかなかった。
「バーキー王国在日大使です。」と室長。なおさら分からない。
「シルビアです。助けていただいた。」
三木は何年か前にバーキー王国で兵に襲われている姉妹を助けたことがあった。その姉だった。
お礼がしたいので、大使館へ来て欲しいということだった。室長は職務だとばかり行けと言う。
三木は気乗りはしないが、明日の昼食会に伺うことにした。
日本は各国に大使館を設けたが、日本に各国の大使館はつくらなかった。表向きは、在日大使に連絡しても通信の不備ですぐに本国に伝わらない、本国にある日本大使館に連絡して伝える方が速いからということであった。本当は、まだ日本のことを知られたくなかったのだ。限られた者しか入国させなかったのも同じ理由だ。
ところが、この惑星が地球かもしれないということになって、国民の目をそらす必要が生じた。戦争も終わって、新たな話題をつくる必要が生じたのだ。そこで、猫耳、熊耳の人たち、小さき人たち、耳の尖った人たちの登場である。
政府はバーキー王国に働きかけ、大使は耳の尖った女性、職員は猫耳、熊耳の人たち、小さき人たちで構成してバーキー王国大使館を設立したのだった。バーキー王国は宰相が猫耳の人であり、建設復興大臣は小さき人、保険厚生大臣は耳の尖った人、外務大臣も耳の尖った人、治安維持長官は熊耳の人といろいろな種族の人が国の中枢にいる国だから、日本政府の要望に簡単に応ずることができた。
バーキー王国大使館には連日、マスコミが押しかけ、大使だけでなく、猫耳、熊耳の人たち、小さき人たちはまるでアイドルであった。
バーキー王国の大使館が日本にできると、トメリア王国、ジュラス都市国家、サンパル皇国と、次々に大使館ができた。安定していないナガアとスリム、そして東方の大陸の4か国はまだであるが、やってくるのは時間の問題である。
政府は、西方大陸の北部を領土にと主張していたアメリカに協力することにした。以前は、どうぞご勝手にと無視していたので、いくら広大な土地を得ても森林だらけでどうしようもなかった。日本の援助なしに開拓などできないのだ。
アメリカの西方大陸の北部の開拓に協力することになったのは、西方大陸東岸地区の集落や油田を守るためであった。日本にとって重要な食料とエネルギーの供給地なのだ。
アメリカに守ってもらうべき敵はもういない。国内のアメリカ軍の基地は必要ないのだ。行き場がないから抱えていただけで、西方大陸の北部へ移動してもらえれば、願ったり叶ったりである。
マスコミの関心事は、耳の尖った人たち、猫耳、熊耳の人たち、小さき人たちの動向だけでなく、この惑星の正体にもあった。新惑星科学賞を受賞した高瀬教授が連日テレビに映り、反地球論を展開していた。政府のほかに目をそらす策は成功していたと言える。