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はじめに―ユン・ソクホ監督の色彩美学へ
ユン・ソクホ論、まだデータ整理も分析も終わっていませんが、そろそろ書き始めたいと思います。完成稿という訳でなく、途中の執筆メモとご理解ください。
映像の美しさで知られるユン監督、例えば身近なスタッフの声としては、直接カメラを回す撮影監督は「彼は実際の色が画面で見るとどう出るのかに敏感で、素晴らしい感覚も持っています。逆光撮影にも敏感だし、ドラマに合う場所を探すためにだれよりも労力を惜しまない監督です」(『ユン・ソクホの世界』71頁)、渉外担当者は「ユン監督は、小物とデフレーションをとてもうまく利用する方です(中略)もともとある何でもない平凡な場所を化粧するとでもいうか(中略)派手なものより情感のある雰囲気が好きで、特に照明をうまく利用しますね。暗いと思ったら明く撮って、明るすぎたら色を殺して。監督は空間を強調する特別な才能があるようです」(『ユン・ソクホの世界』68頁)と述べています。
監督の特徴として何よりも指摘される、その色彩美学について、漸く連載してみたいと思います。今回の第一回は、様々なメディアで語られている、監督自身の言葉言、あるいはスタッフの発言をご紹介しながら整理していきたいと思います。まず監督自身は「東洋的なものをベースに西洋的な色使いを加えていくことを目指している。たとえて言えば、『西洋的な色を出す水墨画の世界』」(『夏の香り』公式ガイド78頁)と述べています。色彩を排除した「水墨画」と「西洋的な色」。ある意味対立的な二つを統合したところに、監督独自の色彩美学があるように思えます。大雑把に都会的・人工な色彩と自然の中に見い出した色彩の二つの軸が存在し、それは都会の物語から、『秋の童話』以後の地方・自然の物語への展開とも対応しているのでないでしようか(もちろん『カラー』でも自然の色彩が追求され、逆に四季シリーズにも都会的色彩感覚はもちろん確認されます。)。
とくに都会的な色彩は、背景やさまざまな小間物で心憎いばかりに、さりげなく、あるいは時にアクセント的に色彩が演出されます。ちなみにアン・グンウ助監督は『もう一つの冬のソナタ』の中で、いろいろな色の紙がいつも用意されドレスアップに利用されたことを記しています。私も以前に龍平・タワーホテルのユジンの部屋で、この点を確認したことがありますが、このような手法は自然の風景よりも都会的な空間でより活用されたのでないでしょうか。
1、『フランス映画のように』と『トリコロール3部作』
一般には監督がカナダのCBS(カナダ放送)で研修した後、1996年に制作したオムニバス形式の『カラー』で色の映像に及ぼす効果が実験され、四季シリーズの原点となったとされています。撮影監督は「ユン監督は色に対してとても敏感です。ポーランドの映画監督クシシュトフ・キュシロフスキーが『トリコロール』の3部作として「青の愛」「白の愛」「赤の愛」を出した時、ユン監督は自分もそういうドラマを企画していたと言っていました。そのあと出てきた作品が『カラー』です」(『ユン・ソクホの世界』71頁)と証言しています。
実は『カラー』の前年1995年に撮影した単発ドラマ「フランス映画のように」について、監督自身は「(室長注・フランス映画は)落ち着いた音楽と映像の染みわたる感じがいい。そのイメージで、セリフをできるだけ減らし、映像と音楽の印象を生かしてつくりました。カラーの母体となった作品ですが、独特という評価を受けました」(『ユン・ソクホの世界』)と述べています。監督はキュシロフスキーについて別のインタビューでも好きな監督として挙げていますが、この点は後日に触れることにして、時期的にも「フランス映画」の念頭に、フランス国旗を構成する三つの色をモチーフにキェシロフスキが監督した『トリコロール』三部作がまず存在した可能性は保留しておいてよいと思います。(実はまだ三部作も『フランス映画のように』もみてないので、宿題にさせてください。)
2、『カラー』
→『カラー』公式ホームページ
監督自身が「転機」(『冬のソナタは終わらない』185-186頁)と位置づける本シリーズ、日本公式ホームページには、ユン監督の次のメッセージが載せられています。
●「COLOR カラー」に収録されている8作品がベースとなって、後の私の作品へ繋がっていると言えます。「ホワイト」は放送後の評判がよく、人気を得ました。私の好むスタイルでもあったので本格的に制作してみたいという思いから、「冬のソナタ」が生まれたのです。四季シリーズの原点となった作品集ですので、様々な発見をお楽しみいただければと思います。
今回は具体的内容の検討は省略しますが、『カラー』は白・赤・灰色・黄色・紫色・茶色・青・グリーのオムニバス形式で、それぞれ前編・後編で構成されています。どちらかというと都会的な作品が多いシリーズですが、地方での美しいロケも見られます。
白で描いた悲しみ(ホワイト)
赤い色は愛の注意報(レッド)
灰色が美しい理由(グレー)
レモンティーの誘惑(イエロー)
紫のブラインドを開けると(バイオレット)
コーヒーの香りは風に飛ばされて(ブラウン)
ジャズに近いブルー(ブルー)
君の背に緑の陽射しが(グリーン)
タイトルにも各話のイメージが示されています。白=「悲しみ」、赤=「注意報」は比較的意味が直接的ですね。黄色では「レモンティー」、ブラウンでは「コーヒーの香り」と飲み物も重ねて作品のイメージをふくらませています。「香り」という感覚は、後に ポソンの大韓茶業の茶園を舞台とする『夏の香り』
に引き継がれて興味深いのですが、ブルーの「ジャズ」も併せて、台詞=言葉以外でもイメージをふくらませるユン監督らしいタイトルでないでしょうか。
シリーズの検討にあたり、それぞれの色にどのようなコードが与えられて作品の基調になっているのかは重要な問題です。監督自身の次の二つの発言が、さらに手がかりを与えてくれます。
●「毎回キャスティングを変えて、8色から連想するイメージを基にさまざまな愛の形を描くというものです。例えば、白は純粋、赤は執着、青は孤独、黄色は嫉妬というように。」(『韓国はドラマチック』、冬ソナ打ち上げパーティー・インタビュー)
整理すると、各色のコードは次のようになります。
白=“純粋な悲しみ"「純粋」
赤=“激しい執着"「執着」
灰色
黄色=「嫉妬」
紫
紫
青=“憂鬱な孤独"「孤独」
緑=“まぼろしの夢や愛"
たりない三色は言及を保留しておきたいと思います。『カラー』から『フィーリング』(原題『ヌッキム』)』、そして『秋の童話』『冬のソナタ』への色彩美学の展開は、『秋の童話』『冬のソナタ』の脚本家・ストーリーテラーである、オ・スヨン作家が詳しく述べていますが、実は、『冬のソナタ』に上記のコードを当てはめると、面白い結果がでましたので、とりあえず次回にご紹介させていただきたいと思います。
