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2005年10月28日
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カテゴリ: 戦争映画
1956 大映 監督:佐藤武 
出演:笠智衆、中山昭二、矢島ひろ子ほか 
99分 モノクロ



 幽霊が汽車に乗って帰ってきて、東京の親類知人を訪ねて回るという発想に驚かされるが、その内容は涙なしには見る事ができない悲しい物語である。ストーリー自体はたいしたことないのだが、無念にも玉砕した兵士が見た戦後の東京と、家族の姿はことさら兵士の無念さをかき立てる。残念ながら兵士達の声は家族達には届かないが、ここで見た10年後の東京をサイパン島に残ったほかの霊魂に報告しに戻っていく姿に、映画ながら思わず手を合わせたくなった。
 映画の主題は微妙で、玉砕兵士の鎮魂とも取れるが、戦後10年間で変貌した日本人への批判ともとれる。戦争の無意味さからの反戦的表現もないわけではないが、むしろ旗を振って兵士を送り出した日本人達が、戦後に豹変して批判的になり、金や権力に溺れていることに対する警鐘でもある。帰るところのないサイパン玉砕兵の魂が泣いているのだ。
 帰還するのはサイパン島玉砕の師団長(少将)以下150名余り。師団全員ではなく、東京に親類がいるものだけの選抜隊という設定だ。ちなみに108師団も108連隊も実在するが、サイパンには行っていない。人物中心の映画のため、戦闘シーンは全くないが、戦後日本の姿として自衛隊の戦車が登場する。戦車は1952年に米軍から375両供与されたM24チャーフィー軽戦車で日の丸付きの姿である。また、米軍撮影の日本兵玉砕の記録映像が少量挿入されているが、塹壕に崩れ落ちる日本兵、累々と重なる日本兵の死体などかなり悲惨な動画である。
 とにかく、サイパン島玉砕何万人と言っても、一人一人の兵士に家族がいて、生活があったことをまじまじと実感させられる。とかく特攻兵は取り上げられるが、こうした年配徴集兵の名も無き兵士達のことも忘れてはならないと、涙せずにはいられなかった。

興奮度★
沈痛度★★★★
爽快度★
感涙度★★★★★




 戦後10年たった東京駅。終電車が終わった東京駅15番線に旧日本兵が乗った汽車が到着する。乗っているのはサイパン島で玉砕した師団の約150名の英霊。東京にゆかりのあるものが選抜され、戦後10年たった東京の様子を見聞し、サイパンに残っている仲間に報告するためだ。
 0時15分、師団長秋吉少将(笠)の号令のもと、各兵士はそれぞれの親類の元に散っていく。集合時間は午前4:00である。
 那須泰彦中尉は恋人雪子のもとへ向かう。那須は出征前に登山した山で強引にキスをしようとして雪子が滑落し、足を骨折したまま出征したことを心配していた。戦地に届いた手紙では足は完治したとあったが、実際には足は不具になっていた事を知る。また、那須のことを想い結婚もせずにいることを知り、那須は感激する。
 秋吉少将はまず皇居へはせ参じ、陛下に玉砕をお詫びする。その後、警察に追われて射殺された若者に出会う。なんとそれは息子の巌であった。タクシー強盗を働き、運転手を射殺した結果だった。息子巌の堕落ぶりをなじる秋吉だったが、死して霊となった巌は父秋吉に語るのだった。戦後、玉砕した部下の家族が石を投げに来た事、家族で田舎に逃げるしかなかったこと、天皇は戦争は望んでいなかったと言い、戦後は言論を翻した金持ちと権力者がふんぞり返っている事など。もう、こうするしかなかったのだと。
 従軍記者の能瀬は妻子がいた。しかし、出征時に3年経って帰ってこなかったら再婚しろと言ってあった。元の家に行ったところ妻子はいなかったため、再婚したのだろうと安心し、元の新聞社へ行く。そこで同僚の松木は次長として活躍していた。何でも他人のものを欲しがって奪ってしまう松木だったが、何故か憎めない男だった。その松木を眺めていると、松木の妻が出産したとの報が入る。松木も結婚したかと、その後をついていくと、なんとその妻とは能瀬の妻であった。松木が能瀬の娘みつ子もかわいがる姿を見て、能瀬は逆に妻子の将来を安心するのだった。
 志水一等兵は年配の徴集兵で、若くて美人妻が再婚したのではないかと心配だった。同行した町田一等兵とともに家を覗くと、やつれた妻がミシンを踏んでいる。息子も整備士として働いているようで安心するが、娘は父親がいない事で就職ができないことを悩んでいる。再婚もせずに、子供を育てた妻に感謝しつつ、妻子を幸せにしてやれなかったことを悔やむ志水であった。
 河野中尉は一晩中母親を捜して歩いた。しかし、結局見つからず集合場所に戻る。遠くで母親の声が聞こえたような気がする。
 午前4時になり師団は集合し乗車する。ただ一人戻ってこなかった志水一等兵もぎりぎりで間に合い、サイパン島玉砕の英霊達はサイパンへ帰っていくのであった。


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最終更新日  2005年10月28日 08時44分06秒
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