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日本が生み出したロボット
谷 明洋(科学コミュニケーター)
人の代わりに仕事をする
皆さんは、ロボットというと何を思い浮かべるでしょうか。鉄腕アトムやドラえもんなどアニメに登場するもの、映画に出てくる R 2 -D 2や C- 3 PO などでしょうか。近年、私たちの生活の場にも、多くのロボットが入り込んできます。
世界初の二足歩行ロボット「 ASIMO (アシモ)」、アザラシ型セラピーロボット「 RARO (パロ)」、ペットロボットとして大人気だった「 AIBO (アイボ9)、愛くるしい見た目で人を癒す「 LOVOT (らぼっと)」など。
もともとロボットは、人の代わりに危険な作業や重労働を行うために設計された〝仕事をする機械〟です。しかし、前述した日本のロボットは、ちょっと違うように感じます。どちらかというと仕事をしない、いわば〝役に立たないロボット〟です。
かつてお茶の間を沸かせたアシモは、格好よく二足歩行でき、サッカーボールを正確にけることはできても、人間ほど器用に動き回ることはできません。まして、労働の世界で役に立つことはありません。
らぼっと、どうしたら人に愛されるかを追求。あらゆる人とコミュニケーションが取れるような技術が集められています。その結果、〝ロボットによってうつが解消した〟〝小学校のクラスでまとまりができ、いじめがなくなった〟などの反応もあるそうです。しかし、仕事という意味では何もしていないように思えます。
役に立たないロボットの面白さについて、近著『役に立たないロボット』(インターナショナル新書)で紹介しています。
どうして日本には、いわゆる仕事をしない、癒し系のコミュニケーションロボットが多いのでしょうか。
よく、日本人は「アニミズム」や「やよろずの神」に親しんできたからという分析があります。
しかし、それだけではなく、生活の中で騒ぎを起こすロボットのアニメや漫画などが描かれたことや、ロボットが軍事開発と切り離されて家庭用に特化したことなどが、こうした現状につながっていると考えられることもできます。
その結果、ロボットと自然に向き合う、コミュニケーションをとるのが普通になっているのです。
一見、仕事はしないが
そこに癒しと気付き
ハプニングを楽しむ大会
皆さんは「ヘボコン」を知っていますか。
ヘボコンは、ハイスペックを排した、ロースペックのロボットの大会。ちゃんと動かない機体はあら。試合が始まっても、ウンともスンともいわないものもいるほど。しかし、それでいいんです。うまく動かないことを楽しむ大会なのです。
動画サイトで、ヘボコンの紹介や過去の大会を見ることができます。協議内容は、対戦型ロボット押し相撲。ロボットが倒れる土壌の外に押し出されると負けです。ここまでは普通の大会のようですが……実は、出場しているロボットが異色なのです。
取材した大会で、特に印象的だったロボットを紹介すると……。
分度器や三角定規、温度計など全身に計測道具をまとった、「量(はか)りリズム」。メジャーの巻き取る力を利用して動くのですが、伸ばし切った巻き尺をただ離してしまうと、それが地面についてロボットを後ろに引っ張ってしまいます。
そのため、伸ばしたメジャーの先を手に持ったまま、ロボットに向かってダッシュします。最後は、人間が土俵にぶつかり、こけて、自滅することに。これは壮大なボケなのです。
中にはボケではなく、天然のハプニングも。「アルティメット・ミッフィー」は小学生がつくったロボット。ちょうど試合開始前に、プログラムの更新が始まってしまい、全く動かなくなったのです。その微妙なタイミングに、会場も大盛り上がりでした。
思ったように動いてくれないロボット。それを見て、不具合をどのように楽しむか。
以前、ロボット掃除機・ルパンを起動したとき、近くにあった掃除機に向かって突進して、ガツガツぶつかったという話を聞きました。たまたま進行方向に掃除機があったのだと思いますが、〝同業他社の製品だから敵だと思ったのかも〟——そんな想像をしてみると楽しいものです。
〝役に立たないロボット〟は、今後、より一層必要とされることになるでしょう。それは便利な道具ではなく、私たち自身が変わっていくきっかけを与えてくれる存在です。また、いるだけでのその場の雰囲気を変えてくれる存在としても注目されています。
一貫すると役に立たないロボットですが、失敗も含めて楽しもうと思うことで、私たちに何らかの気づきをもたらしてくれるのです。=談
たに・あきひろ 1980 年、静岡県生まれ。静岡新聞記者、日本科学未来館で化学コミュニケーターに。現在、会社員の固綿、地球を旅する「さとのば大学」専任講師などとしても活躍している。
【文化 culture 】聖教新聞 2025.4.17
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