狂言




千の丞1
     大好きな千の丞さん


 どういう訳か結構観る機会の多い『狂言』.
 ぶっつけ本番に観ても良し.
 日本古典文学全集の『狂言集』で後から思い出しても良し.
 とにかくイージーな方向に流れる私には歌舞伎と狂言はおあつらえ向きだ.

 狂言はたいへんご立派といえるほどのものではない.
 古典文学と同じでとにかく色恋を取り上げられたものも多い.

 数年前,やたら女性の多い狂会場に居合わせたことがある.
 私の好きな千之丞さんも演じられていた.


 彼は女性が多いことに明らかに気を良くしておいでのご様子.
 二つの演目が終わった頃にこにこ顔の千之丞さんは,
厳かにこう述べられた.

「これはあまり舞台でするものでは無いのが・・・・・.」
神妙な面で,
「是非皆さんに覚えて帰っていただきたいと・・・・・.」

 それは,なんと
『起きあがりこぼし』
だった.

 ??????
 直感的にどぎつい内容のものと悟る.

<いいんかな,こんなのやっちゃったりなんかして..>
と内心彼をしかりながらも・・・・
ほくそ笑む自分に気づく.

 ああぁ...
 知らないからね..
と思いつつ彼の顔を恥ずかしげに観る私.


 京に京に流行あーるうっ
 起きあがり小坊師やあよっと
 ............
 ............

ってな調子.

 みんなはかなり乗っている様子.


 その内千之丞さん,舞台まで下りてこられて,
「皆さんもご一緒に..」
と申される.

 会場は女性の声の嵐.
 何のためらいもなく,なんの屈辱も感じずして大声で機嫌良くコーラス.
 その声は澄みきっていて何の疑いも持っていないようだった・

 意味承知の上ならば,女性の感性も捨てたものでは無い.

 私は彼よりも客席に重きを置いて観察に徹することにした.
 こんなブラックユーモアは本の世界以外でそう体験出来るものでは無い,と判断したのである.

 彼は勢いついてその内手拍子まで加えられた.

『オオー,マイガアット!』

 千之丞さんは多くの女性を従えて大きな声で歌われていた.
 女性達は無邪気に千之丞さんの手の平で転がされている.


「合点か?合点だ.合点合点,合点だ!」
そしてその繰り返し.


 ・・・・・・・・・・・


 いい経験をさせていただいたことに今も尚感謝の念で一杯.

 それ以来千之丞さんの度を超した<?>ジョークの虜になっている.

 だが,それ以来彼の舞台は数多く見たが,あのようなパロディジョークは体験していない.
 演目の選び方にもお人柄が出て楽しい.
 あのユーモアをもう一度!で有る.

 かくして私は狂言において,別の楽しみ方を知った.
 狂言師も所詮人の子.


    私の好きな千之丞さんに

           感謝!合掌.



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