女の醍醐味『せこせこ買い物術』


 スーパーに行きてなかなか手も出ず右往左往の日々也.

 野菜を持ち上げ冷や汗が油のごとく たらりたらり.
 内股は無意味に風にさらされるトタンのごとく がくりがくり.
 指先までもが悪寒に悩む猫のごとく ぶるりぶるり.

 心臓への悪影響が懸念される野菜をコーナーへと戻す.

 是ではいけないと自分に言い聞かせ,冷凍食品コーナーへと足を運ぶ.
 悲しきかな,今日は4割引の日にあらずして直ちにその場を退散する.

 お買い得コーナーがどたま<失礼>頭をよぎる.
「あそこへだけは行くまい,これぞ女の意地也.」
と心で思えども体は別の人格を持ち合わせるべく足早に現地に向かう.

「おう.これこれ.」
 手にとりし大束のほうれん草,大束一塊り138円.その上,赤シールにて50円引き也.

 おもむろに周りに気を払いて平静なる顔を保ち,籠に入れる.この間,時間にして5秒.

 タンパク質源及び大豆製品は激安日に大量購入の為今日はほうれん草のみ買うこととす.

 重き足どりに勇気を奮い立たせ,レジに並ぶ.前後の買い物客の視線,我が持ちし買い物籠のほうれん草に集中.知り合いいぬ事がせめてもの救いなり.前後の無礼な客を<内心>しかる.

 ほうれん草いたいたしくレジに通され,買い物袋と共に籠に放られる.
 ほうれん草に対して大き過ぎる袋がもの悲しさを強調する.

 138円-50円+(138円ー50円)0,05=92円

 財布より商品券を取り出しレジ係に差し出す.
 レジ係無表情を保ちて仕事を続ける.
 おつりとして908円受け取る.
 少々得した気分にあいなりてほくそ笑みながら小銭をしまう.

 どっさりとした満足感.
 これぞ女の醍醐味.

 2,3度財布を揺らし一層の幸福感を得る.

 足早に家路に向かう.
 得意げに娘に事実を告げる.
 娘宣いく,
「ばばや!!」

 娘一言にて片付けたり.

 母 内心呟く,
「おばはんに 
     貴女もなるのよ!その内に・・」」
 そして再度娘の顔をまじまじとなめまわすように見つめる.

 娘横目にて母の顔を素通りす.


く8



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