歴史が私たちに伝えること

 
 歴史が私たちに伝えること 


人間は、さまざまな過ちを犯しながら、21世紀を迎えました。

過去の過ちから私たちが学び取らなければならない“負の遺産”がたくさんあります。




あなたがもし奴隷だったら



◆『あなたがもし奴隷だったら』  

ジュリアス・レスター 文・ ロッド・ブラウン 絵/片岡 しのぶ 訳
/あすなろ書房


当市の図書館で、高学年向きの推薦図書に指定している

長い歴史の中の真実を描いた「奴隷」についての絵本です。

ジュリアス・レスターは、1939年アメリカ生まれ。

フィスク大学で文学を学ぶ。

マサチューセッツ州アマースト大学教授。

30年以上前に聞き書きによって『奴隷とは』(岩波新書)
という本を出版していました。

ところが、ロッド・ブラウンの絵を見たとき、まだまだ書くべきことがある
という強烈な思いに揺さぶられました。

ロッド・ブラウンは「奴隷」をテーマに36点の絵を制作しましたが
そのうち21点がこの絵本に収められています。

彼の絵には、写真のリアリズムを越える迫力がある。彼の存在すべてが
かけられているにちがいない。

これほどの絵に、どのような文を添えようかと考え、やはり、
昔、奴隷だった人たちの声が聞こえるような文が望ましいと考えるのです。

この絵本は、作者自身の魂の声であり、過去から現在につながる歴史の声です。

かつて、奴隷貿易船というものがありました。

この船でアメリカに運ばれた大勢のアフリカ人は、無報酬の労働力として
売買されたのです。

やがて、南北戦争によって奴隷は開放されますが、それまで、ほぼ400年
にわたって存在した奴隷制度の実態、あわせて現代人が今享受している自由
の尊さ、それにともなう責任について、この絵本は語っています。

人間でありながら<物>として扱われるとは、いったいどのようなことなの
でしょう。

一つ一つの真実が、人間の重いテーマとして私の心の中に残った絵本です。

一度はこの本に出合ってほしい、出合わせてあげてほしい一冊です。




国境を越えて

◆『国境を越えて』 戦禍を生きのびたユダヤ人家族の物語

ウィリアム・カプラン,シェリータナカ 文/シュテファン・テーラー 絵/
千葉茂樹 訳/BL出版


こちらも高学年向きの推薦図書に指定している絵本です。

この物語は、ナチスドイツの迫害をのがれて、地球の4分の3にも及ぶ距離を
1年半に渡って旅し続けた家族を少年イーゴルの目をとおして描いています。

第2次世界対戦中のナチスによる迫害で、数多くのユダヤ人は、
ただユダヤ人であるという理由だけで、たくさんの命を奪われました。

この家族の物語では、日本が大きな役割を果たしています。

旅の中継地点として神戸に滞在しているからです。

当時、神戸や横浜には、ユダヤ人難民を受け入れる団体があり、
多くの人々がヨーロッパからやってきて、さまざまな国へとわたって
いきました。

このような人道的活動をしていた人々がいた一方で、後に神戸のこの団体は
政府による弾圧を受け、代表者たちは逮捕され、解散に追い込まれたといいます。

その事実はどちらも歴史の表裏として、記憶にとどめておかなければならない
ことです。

イーゴルたちの旅に大きな影響を与えた人物として、
杉原千畝さんのことを忘れるわけにはいきません。

杉原さんのビザによって命を救われたユダヤ人は、最終的には六千人
にものぼると言われています。

しかし、杉原さんは、戦後、政府の命令に従わなかったとして、
外務省からの辞職に追い込まれてしまいました。

ところが、近年の内外での評価の高まりを受けて、1991年、外務省が
正式に遺族に謝罪したのをはじめ、2000年10月には、外務省の施設
外務資料館に「勇気ある人道的行為を行った外交官杉原千畝を讃えて」
と記されたプレートがかかげられました。

こうして、杉原さんの名誉は正式に回復されたのです。

カプラン家の人々は、紙一重の幸運によって、命をつなげとめたといっても
いいでしょう。

私たち大人は、歴史を通して、何が一番大切なことであるかを子どもたちに、
語り継がなければならないと思います。



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