
ている。「初見の挨拶などねんごろにし給ふ。おのれまだかかることならはねば、耳ほてり、唇か
はきていふべき言もおぼえずのぶべき詞もなくて、ひたぶるに礼のみなすのみなりき。」
桃水は「低い身であるのに少しく背をからめ色艶の好くない顔に出来るだけ愛嬌を作って、静粛に
進み入り、三指で畏まってろくろく顔も上げず、肩で二つ三つ呼吸をして、低音ながら明晰した言
葉遣い、いんぎんな挨拶も、勿論遊ばせ尽し、昔の御殿女中のお使者に来たやうな有様で・・・」
と書いている。これは、桃水が、一葉の死んだあとで書いているので脚色や勘違いもあるが、まあ
雰囲気はわかるだろう。
それから、一緒に食事の相伴までしている。死別だがバツイチ男だ。
一葉は、「君がくまなきみ心ぞへの事とて八時という頃にぞ家に帰れり。」と書く。一葉にとって
これは、初めて大人の男から聞いた慈愛に満ちた感動の瞬間だったろうか。桃水は、世俗作家であ
り、指導を受けてみると、余りに一葉の作品が古典過ぎて世間受けしない言われて、一葉は悲嘆に
くれる。併し、一葉の「文学の肥やし」にはなった恋であろう。
一葉が、上野の図書館で勉強していたとのことです。一葉にとって冷酷な世の中
だったのだろうが図書館の中で読書をする一葉を想像するだけでほっとした気持ちがします。