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その日を摘め



 ホラティウス(紀元前65年、南イタリア生まれ)の書いた八行詩にある言葉、carpe diem「その日を摘め」である。未来など頼みにしないで、今日この日を摘みとれ、と詩人は歌う。

 この言葉について須賀敦子が次のような説明をしている(『本に読まれて』中公文庫)。ローマに帰った古典好きの友人によると、次のような意味である。

「これ(carpe)は、花を摘むみたいに、葉のあいだに見えかくれする実を、ぱっと摘みとるとか、そんな言葉なんだよ。ぐずぐずしてないで、さっと摘め、そんな感じだ。ぷちん。その瞬間、私は、花の茎が折れる、微かだがはじけるようなあの音を聞いた気がした」

 まさに生きながら火あぶりにされる時にリュディアの王、クロイソスは、ソロンの「人間は生きている限り、なにびとも幸福であるとはいえない」という言葉を思い出した。栄華の絶頂を極めたと思える人でも最後にはどうなるかわからないということをこの言葉はお知れる。

 しかし、この「人間は生きている限り、なにびとも幸福であるとはいえない」というソロンの言葉より、今はホラティウスの言葉の方が僕には説得力がある。

 ある見方によればこの言葉は次のように解釈される。

「(関東大震災後)人々は無情感というものをあらためて実感し、「今日を楽しめ」(carpe diem)という享楽的な生活態度が、飲食店を繁盛させ、いわゆるエロ・グロ・ナンセンスの時代を生んだのではなかったか」(田中美知太郎『時代と私』文藝春秋)。



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