2003/06/23
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これからしばらくの間機嫌が悪い。 講談社文芸文庫のページが見当たらない。数ヶ月前顔馴染みの猫の礫死体を見た場所のそばで子猫三匹が植木鉢の周りを走り回っていた。呼んでも近寄ってこないのは同じ。


『二つの肉体』野間宏
『草を刈る娘』石坂洋次郎
『夜の家にて』川崎長太郎
『サビタの記憶』原田康子
『蝶をちぎった男の話』福田章二
『初夜』三浦哲朗
『木の上』川端康成

『花の名前』向田邦子
『箒川』水上勉
『ボトル』三木卓

 あまり興味のないテーマの中、川端康成と唐十郎のものを何の冗談だこれはと不思議に思い、石坂洋次郎は狙いすぎ、原田康子は少女少女しすぎ、水上勉で安心して終われると思ったら三木卓にこかされた。
 そんな中、庄司薫こと福田章二のものは楽しめた。先日と同じように漫画家の絵で想像しながら読んだ。今度は萩尾望都。『赤頭巾ちゃん気をつけて』にそのイメージはないが、『蝶をちぎった男の話』にはぴったりだ。『ポーの一族』あたりの、不安定な絵で。この場合先人は福田章二である。1957年。



 私がまだ小さい時から、彼女はみんなのいる部屋に蝶とか蜂とかが翔び行ってくると急に目を輝かせて、
「あら、早く殺して・・・・・・・・・。」
 と無邪気に叫ぶのだった。
 そういう時はいつも私が殺した。私の目も輝いていたに違いない。私は若い獣のようにすばしこく蝶を追うと見事につかまえて頬笑みのうちに殺すのだった。そして私は、そんな私をじっと見守っている彼女が、その繊細な鼻腔をふるわせて大きく柔らかく息づきながら頬笑む時、どんな時よりも美しい魅力に充ちた彼女を見つけるのだった。
 私は今迄にも何度となく彼女が庭の手入れをしながら蝶をつかまえるのを見た。彼女はつかまえた蝶を暫く見つめていたあとで、やがて少女のようにあどけなく頬笑むと美しい蝶の翅を細い指先でつまんで左右に優しく引張るのだった。蝶は花片のように散った。彼女は大きく息をするのだった。いつもそうだった。



 様式美と言っていいような、今見れば典型だらけを具現化した美。この女に恋した男性の二十年に及ぶ片思いの話。蝶を小動物を罪の意識なく殺す女を愛したために、自身は深く罪を感じながら、女とは関係のないところで虐殺を続け、それらに囲まれて死ぬ男。まるでそれは美談だ。小動物の死骸が積み上げられ、蝶の羽のベッドに横たわって死ぬ男はグロテスクでもあるが、まるでそれがいい話であるかのように美化してもいいところであろう。しかし女は「おかしくって・・・」と笑い出すだけだ。佐助が春琴の美しさを永遠に留めるために目を針で突いたのと違い、無関係な場所での片思いによる異常行動はお笑いにしかならない。捨てたれ、笑われ、忘れられる。




 私も・・・・・・・・・。私はあの夕べから、私の美しい叔母のものになったのだから。
 ただ、私が蝶をちぎる時、新らしいレコードや詩集を買う時、或る花や香水の匂いを嗅ぐ時、そして晴れた朝あの公園をラバーソールの軽い靴をはいて軽やかに歩いていく時、私はふと野沢氏のことを思い出す。そして堪らなくおかしくなるのだ。


 一番面白そうな「『私』という迷宮」の16巻まではまだ遠い。

戦後短篇小説再発見 12 男と女-青春・恋愛(
講談社文芸文庫)






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Last updated  2003/06/23 02:08:59 AM
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