2003/12/09
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カテゴリ: 国内小説感想
 もう随分昔のことと思える、去年ではなかったが、今年ではあったが、今年のいつ頃だったろうと思い出そうとすれば、最近よりはやや離れた月を思い出しそうな、ここ数年事件の風化が早くなったと感じる頭で思うなら、それくらい前にあった事件に似た、若い恋人たちが、自分たちを理解しない男側の両親を殺す表題作。殺すのはやはり男の手だ。女は、女は男を、男の過去の記憶をも振り回すが、殺しはしない。嫌な、いやあな話だ。
 収録作『蛇淫』『荒くれ』『水の家』『路地』『雲山』『荒神』は『岬』前後に書かれたもの。つまりこの時期のものは、私はあまり好きではない。『岬』の秋幸が登場する以前の主人公たちの暴力的衝動やその結果には、強い嫌悪感を起こさせる。読んでから随分と経つこの本を今パラパラとめくってみても、目を背けたくなる。思い出した話の内容は、読んだ時より数段グロテスクなものとして甦る。
 時に不可解なくらい幼い文章にも出くわす。


 現場にもどった。土方と一緒に、基礎を打つ準備をした。日が暮れた。ダンプカーを組の駐車場に置いた。明日の仕事の割り振りを、社長からきいた。十三の車に乗せてもらって、家へむかった。山から、海に向けて、朱色の雲があった。一日が終ると、彼は思う。
『路地』より


 まるで小学生の日記だ。ここほどではなくても、あまりに工夫のない、無防備な描写は散見される。『岬』『枯木灘』他紀州サーガに連なる物語が組み込まれていなかったなら、我慢出来なかったかもしれない。


 義母は、生きているように思えなかった。半分、死んでいるのだ。いや、死んだ人間のことばかり頭の中にあるように、昔を思い出し、昔に浸ろうとして涙を流した。この路地の、天地の辻で、毎日毎日年寄りたちとばかり話しているせいだった。

『路地』より


 憑かれた時期は過ぎ、中上健次を読み進めることが少し苦しくなってきた。自然と感想も滞る。しかし少しは本を読む。他の本の世界にも邪魔をされ、読んでから一週間も開けば、読後の爽快感も興奮も薄れ、態度も冷たくなる。こちらが悪い。





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Last updated  2004/10/29 01:08:59 AM
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