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こえめ
です![]()
やっと来た来た、きましたよっ。
お待たせしました。真矛の登場です。
( 総合目次
魔法の真矛ちゃん(友人・証言)の1から3と連動していますよん。
―真矛・告白― (1)
その頃の私は、
ずいぶんとっつきにくい存在だったと思う。
その日私は、リカさんとキッチンに立っていた。
リカさんはいつものように、
レースの付いた真っ白なエプロンをして、
久し振りに
材料の粉とバターをきっちり量ったパイ生地を練っていた。
私は、せいいっぱい背伸びして
生地がどんどん畳み込まれていくのを、興味深くみていた。
それは私の大好物のアップルパイで、
よくママとリカさんと三人で、お庭のベンチに座って食べたっけ。
でも今はもう、ママは居ない。
ママは前の年の列車事故で死んでしまった。
お葬式が終わったとき、仕事で海外に住んでいたパパは、
私も一緒につれて帰ろうとしたのだけれど、
リカさんが日本を離れるのは嫌だと言い張り、
私も彼女と離れるのを泣いて嫌がったらしい。
そんな訳で私とリカさんは、
この広い家で二人きりの生活が始まった。
ママが死んでから、
リカさんがパイを焼くことは一度もなかったようだ。
ママを思い出した私が悲しむのを心配してのことだったろうけど、
リカさん自身も辛かったのだろうか。
そのとき私は、生地が何度も何度も伸ばされ、
たたまれていくのを見ながら
悲しいというより、単純に楽しんでいたと思う。
ママを恋しがって泣いた季節は、
私の中ではもう大分遠ざかっていたのだろう。
その頃には、「大好きな」の言葉の次に思い浮かぶのが、
「ママ」よりも「リカさん」が先になっていたけれど、
それでもやはり、ママが私の中で特別な存在だったことに
変わりはなかった。
リカさんがいい匂いに焼きあがったパイを
サンルームのテーブルに載せた。
「今から実夏ちゃんを迎えにいくけど、真矛も来る?」
「……行かない」
私は折り鶴のくちばしの角度を確かめながら、
昨日幼稚園で彼女が描いた
遠足の絵を思い出していた。
へたくそなキリンの絵だった。
(キリンってあんなに首が太くないわ
それに、角の先にリボンなんかつけちゃってたけど、
そんなキリンなんて見たことない)
私はリカさんが玄関を出て行くのを
廊下から見送ると、
猫がいつの間にか私の足元にすり追ってきていた。
「パール、いい子ね」
抱き上げてその真っ白な毛に顔をうずめると、
リカさんと同じいいにおいがした。
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