くんちゃんの・・・

くんちゃんの・・・

自信

自信


 こんな私をそばで支え続ける夫が本当は一番辛かったはずだ。気分転換に外へ連れ出しても、その楽しい環境の中に入り込めない自分にかえって沈み込む始末、人混みが怖くて怯えていた自分、夜になると布団に潜って泣いている自分…そんな私を強く支えてくれたのが夫だ。

 そんな夫に対してさえ一時期私は‘これは多分愛情じゃない。愛情と錯覚した同情なんだ。’そんな風に思ったこともある。夫という人はとても責任感の強いタイプで、同情に伴う義務感から私のことを愛していると錯覚しているのだとしたらそれはとても哀しいことだしそんな呪縛から一刻も早く開放してあげたいとも思った。私のようなつまらない人間に縛られてその一生を終えるのはもったいない人だと思った。
 この時期、たった一度だけ自分の口から離婚を口にしたことがある。こんな馬鹿な女を一生抱えて生きていくことが夫の幸せではないだろう。夫のこと愛してるから辛い。夫の幸せが私の幸せだと思った。夫にはもっと相応しい相手がいるはずだ。夫は運が悪かったのだ。だとしたら、私が取り返してあげなきゃ。夫が幸せになるのなら、私との別離があっても仕方がない。もともと私には夫の心をつなぎ止める魅力など何もない…と、あきらめにも似た感情が私の多くを支配していた。支えて支え合って生きていくのが夫婦なら、私は寄りかかって甘えてばかり…。

 「何を馬鹿なことを…!」夫には軽く受け流されてしまった。
「手術をする前のおまえも、手術をしたあとのおまえも何ら変わりはない。
K美がK美であることに変わりはないんだから。
自分にとってはK美が一番大切、ほかの誰でもないおまえなんだ。」
真剣な表情で諭す夫を見て、自分ばかり傷付いた様に錯覚していた自分が恥ずかしくなった。大事なものを失うかも知れない恐怖、大切な人がこの世からいなくなってしまう恐怖…本当に傷付いたのはほかの誰でもない夫な筈だ。改めて夫の懐の広さに頭が下がる思いだった。

 この言葉を胸に‘生きていけるかな’はじめてそう思った。はじめの一歩に躊躇していた私が、前を向いて歩み始めるきっかけとなった言葉だ。夫に負担ばかり掛けて、夫の支えになれる自信はまだないけど…、お荷物にならない程度に寄り添って生きていけたらと思う。歩き方はまだよく解らないけれど。焦らず、おごらず、ひがまず、ねたまず…一緒に歩いていきたい。この人の後ろをついていこう…そう思った。


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