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楽園のサジタリウス3 八
「脱走!?」
翌日の朝、親衛隊キャンプは大騒ぎとなっていた。
数日前この世界へ転移してきたアマデミアン、そして親衛隊雑用見習い補佐(仮)として入隊した的場一機、親衛隊での名をシリア・L・レッドナウが、姿をくらましたのだ。
発覚は、前日の疲れと温泉に入ったことによる脱力感で少々寝過してしまったヘレナが「遅くなってすまない。さあ今日から訓練再開するぞ」と一機の寝台車に行ったら、すでにもぬけの空だった、というのがきっかけだ。
さらわれたのだとすると荒らされた様子もないし、いくらなんでも見張りが気付くだろう。荷物は一機があちらより持ってきたものがなくなっている。となるとこれは――脱走一択しかない。
「ふ、ふん! 所詮あいつは軟弱な男だったんですよ! 親衛隊には耐えきれないと思って逃げ出したんでしょう! いい気味です!」
あっはっはと上ずった声で笑うグレタの向かいに座ったヘレナは、眉をひそめ考え込んでいた。
一応皆には周囲を探させている。「あのやろー逃げやがって、やっぱり殺す!」と怒りに燃える隊員たちだが、いつどこへ向かったのかわからないのでは望み薄だろう。
「やはりあんな男を親衛隊に入れたのは間違いだったのです! いえ、正確にはまだ親衛隊雑用見習い補佐でしたね。あっさり逃げるような腰抜けを親衛隊として入れるなんて百年の栄光に泥を塗るようなもの……」
「本当に逃げたと思ってるのか?」
やたら早口で語っていたグレタが言葉に詰まる。グレタ自身、一機が逃げるとは予想もしていなかったに違いない。
ここ数日直に一機を鍛え接してきたヘレナから見た的場一機という男は、まあ軟弱だ。筋力も体力も無いし意思も弱い。トロいし弱音を吐いて訓練も仕事もロクにこなせない役立たずだ。
しかし、それでもやり遂げようとする。
どんなに大変な仕事でも理不尽な扱いでもこなそうとしている。できないことでも一応最大限ていねいに仕事をやろうとはする。意思薄弱で流されてるだけ、と言えばそうなのかもしれないが、少なくともその姿勢は評価できる。
あれでプライドは高いようなので、こちらが不条理な真似をしなければそれなりの腕になるかな、と思っていた矢先のこと。逃げるとはとても思えなかった。
「第一、私たちから逃げたところでどうしようもないことくらいあいつだってわかってるだろ。何処に逃げるというのだ?」
「それは……当てもなくというところで」
「しかも、逃げるにしても、あいつが彼女を――麻紀を置いておくと思うか?」
「そ、それは……」
そこを指摘されるとグレタも黙るしかない。
事実、ヘレナが来た時も麻紀はベッドの中で眠っていた。起こしてみても「さあ?」ととぼけた様子。仮に逃げるとしたら、麻紀を置いていくだろうか? 見た目は素っ気ないが、あれで二人は互いのことを気遣っているはずだ。何も言わず立ち去るというのはいくらなんでもおかしい。
が、ではいったい一機はどうしたのだろう? 自己鍛錬……はない。あいつがそこまで能動的とは思えないし、だったら着替える必要もない。ヘレナには皆目見当もつかず、隊員たちに探させているのも何かあったのではないかと心配してのことだった。
ひょっとして、また――と、ヘレナの脳裏にある光景がよぎった。
「くっ……」
「ヘレナ様、どうかなさいましたか?」
「あ、ああ、いや、なんでもない」
冷や汗をかいていたのを悟られたか、あわてて平静を装う。
いくら昔のこと、過ぎたことと思っても、未だ心が乱れてしまう。もう六年になるというのに、私はまだ……
「――とにかく、これだけ探してまだ見つからんということは、かなり遠くへ行ったようだな。さて、どうしたものか」
「ヘレナ様、私たちには時間がないんですよ」
毅然と、固い声でグレタは言った。驚いて顔を上げると、冷やかな目で見つめるグレタがそこにいた。
「ただでさえ敵の罠によって進軍が滞っている以上、時間的余裕はありません。その上で脱走者の捜索などに時間を費やしていては、任務を果たすことも難しくなるでしょう」
「……見捨てろというのか、グレタ」
「先に逃げたのはあいつの方ではないですか。たしかに拾ったやったのはこちらですが、逃げた奴を構う義理などありません。……それとも」
半眼で睨みつけながら、グレタは告げる。
「ヘレナ様は、他に一機を手元に置いておきたい理由でも?」
「……!」
言葉こそ疑問形だが、その表情はこちらを非難した厳しいものだった。
気付かれている。自分の身の寂しさと、現実から目をそらす手段としてあまりに利己的な行いをしていることを――
「――わかった。捜索は止めさせよう。皆に進軍の準備を……」
「それはちょっと困りますねえ」
「わっ!」
突然会話に入られびっくりしてしまう。いつ来たのか麻紀が間に顔を出していた。
「お、お前気配を出さず近づくのはやめろ!」
「仮にも騎士の皆さんが一般人の気配に気付けないというのはどうなんでしょう」
「ぐぐっ……返す言葉がない」
二人とも、麻紀には何度も不意をつかれているので押し黙ってしまう。すると、麻紀が紙切れを一枚取り出してヒラヒラさせる。
「とにかく、捜索は続けてくれるとありがたいのですが。一機さんもそれを望んでますし」
「な、なに?」
ギョッとした。一機は麻紀に何か伝えていたのであろうか。
「どういうことです。あなた今朝は何も聞いていないと言ってたじゃありませんか」
「ええ、何も聞いていません。ですが、あの人置き手紙を残していました。ほら、これです」
麻紀は二人に持っていた紙切れを差し出した。小さいがつるつるしていて、普通の紙ではないことは容易にわかった。そこに、文字が書かれているのだが……
「……読めん」
「おや、そうですか? あの人字クセ強くて汚いですけど、まあ読めないってことはないはずなのに」
「あの男の字の上手さなんか知りません。私たちにアマデミアンの文字が読めないと言っているのです」
あら、と麻紀は舌を出し、こつんと自分の頭を叩くそぶりをした。どことなく可愛い。が、からかわれたこちらとしては笑うこともできない。こちらの文字が読めてもまだ教えていないので書けない一機の伝言は、当たり前だがあいつの世界の文字だった。
「いいから、教えてくれ麻紀。それには何が書いてあったのだ?」
「ええと……これはちょっと読むのがためらわれますねえ」
「もしかして、貴方個人に送られたものですか?」
「いいえ、それはちょっと違うのですが……わかりました。お読みいたします」
ごくり、とヘレナとグレタが息を呑むと、麻紀はこほんと咳払いしてから読み上げた。
「『魔神を取ってきます。探してください』」
以上です、と麻紀が言い終えると、その場にもういくつかわからない静寂が訪れた。
「………………………………………………………………………………………………………」
「…………………………………………………………………………………………………は?」
は? を言ったのが誰だったが、多分どっちも同じ感想だから判別する必要はないだろう。
「な、なん、ですかそれ? 取ってくる? 魔神を? あいつが?」
「それしか書いてないですねぇ。魔神というと怒ると顔が豹変する方でしょうかそれとも大リーグへ行った方でしょうか」
「そちらの世界の魔神なんか知りません! この状況で魔神だったらこの峡谷にある『炎の魔神』以外あり得ないでしょう!」
グレタは激昂した。ヘレナはわけがわからず戸惑うばかりだ。
「『魔神』を、取ってくるだと?」
「まあそう書いてますから。伝えなかったてことは単独でということですが、許可取らなかったので?」
「取ってませんよ! 第一やるわけないでしょそんな勝手! それ以前になんですか最後の「探してください」というのは!」
「恐らく、先に見つけてくるけど逃げるわけじゃないから迎えに来てねん(笑)ってところじゃないですか?」
「だったら最初からそんな独断専行すんじゃねええええええええええええええぇぇっ!!」
髪を逆立てグレタは怒号を上げる。ヘレナはといえば怒りと呆れが入り混じったような感覚だった。
「何を考えているんだあいつ、一人で敵地に先行するなんて……」
「ふんっ! どうせ手柄でも欲しくなったんでしょ! 男というのは欲まみれで単細胞なものですから!」
「たしかに一機さんは短絡的で欲深でスケベ小僧で脳みそツルッツルなんじゃないかというくらい頭悪くてその実できもしないくせに思案を巡らせたがっておまけに体力無いし腕力ないし脚力は意外とある方だけど使いどころがないから無駄無意味無力でそれになんといってもぬぼーっとして無気力で行動力がなくて向上心がなくて臆病で鈍感で唐変木でウスラトンカチでオタンコナスでにぶちんでKYなバカヤローですが」
「……あの、そこまで言ってないんですけど。しかも意味がわからない言葉が少々」
「――でも、基本石橋を叩いて叩いて叩き壊して結局通らないような腰抜けですから、そんな大胆な行動できるとは思えませんね。よっぽどのことがなければ」
ジロリ、とヘレナを睨みつけてくる麻紀の視線にたじろいてしまう。
「な、なんだ麻紀?」
「なにか、身に覚えありませんか? あの馬鹿がこんな突拍子もないようなことする理由」
「――っ!」
思わず息を呑んだ。一機が、しかもこの機にそんな危険なことをする理由。ヘレナには一つしか思いつかなかった。
「おや、何か心当たりあるんですね?」
「あ、ああ……実は」
「もしかして、この目のこと話しちゃいました?」
言葉に詰まる。包帯で巻かれた右目が、その下からヘレナの心の底まで覗いているようで怖気がした。
「なるほど、そうなると一機さんがこんな無茶をした理由も見当がつきますね」
「ひょっとして、手柄でも立てて親衛隊での地位を上げ、麻紀を置いてもらうよう頼む気だと?」
「他に思いつかなかったんでしょうねえ? 誰にも先越されないように単独で。はは、あの人にしちゃアクティブですこと」
「…………」
皮肉っているような笑みをこぼす麻紀の顔に、ヘレナは苦虫をかみつぶしたような顔をした。
――麻紀の奴、まさか全て承知していたんじゃないだろうな。もっと早く置き手紙を見つけていて、いや、もしかしてあいつが出ていく時気付いていたんじゃ……
それで麻紀は今の今まで置き手紙を隠しておいた。自分のために行動した一機の気持ちを汲んだのだろう。
「何が手柄ですか! そんな勝手な真似して、帰ってきたら焚火の上で逆さ吊りにしてあげますから!」
「ハムか何かじゃないんだぞ……」
ますます激昂し出したグレタをたしなめる。しかし、とため息をつく。
――あいつは、私を信用しなかったのか。だからこんな無謀なことを……
正直、麻紀の処遇についてヘレナは悩んでいた。
片目を失ったアマデミアンの素人など、ある意味一機以上に隊員としては問題がある。こちらに留めるよりは親しい貴族に使用人として紹介するかなどと考えていたのは事実。そんな思惑を読まれてしまったのが今回の原因か。
「というわけで、本人のご希望通り探していただけるとありがたいのですが」
「馬鹿を言いなさい! 第一、そんな素人がたった一人で行って『魔神』を奪い返せるわけないでしょ! 返り討ちにあって殺されるのがオチです!」
「そうとも限らないじゃないですか」
あっさり放たれた言葉に二人ともギクリとする。
「だってあの人、世界を乱す者なんでしょう? 聖女様が言ってた人なら、それくらい可能だと思いますが?」
「いや、でも、いくら予言でそう言われていたからって……」
予言。
それこそがシルヴィア王国親衛隊がこんな奥地まで参じた理由であり、またこの二人を保護した理由でもあった。
『シルヴィアの聖女』とは、シルヴィア王国で信仰されている唯一神カルディナを頂くカルディニス教の中において、カルディナ神の言葉を聞ける存在だという。だがその聖女様がどんな人物か知ることが許されるのは女王とカルディニス教団の中枢にいる教皇と数名のみ。ただ、神託を受けるのは修行で身につくものでなく、生まれながらの才能らしい。聖女が死ぬたびに新しい聖女がどこかで生まれ、お告げによって教団はその聖女を迎え入れる。
その聖女は、カルディナ神の声を予言として聞くことができる。神言葉だからそれは絶対と思うのが普通だが――これが、的中率は意外と高くない。教団によればそれは未来を示す指標であり、起こり得る危険や困難を回避するためのものと語っている。
そして今回、わざわざ親衛隊が出向いてまで確認することとなった予言の内容はこうだ。
『――魔を潜める峡谷より、天からの異邦人現れん。
その者、怪物と心を交わし、国を乱さん――』
「……なんか直球なのか抽象的なのかよくわかんない予言ですね。いい加減というか」
「貴様、聖女様の予言を愚弄する気ですか!」
こちらこそあまりにそのままな感想を述べた麻紀にグレタがまた怒り出す。ヘレナはというと、似たようなことを思ったので何も言えない。
とにかく、外れる可能性が高い予言でも危険を示すとあれば確かめに行かねばならない。しかし、そんなことに女王を守ることが本来の任務たる親衛隊が向かうことになるとは……ヘレナはため息をついた。
仕方がない。今の親衛隊などあってないようなものなのだから……
「ま、予言通り一機さんがやっばい奴だったら、案外なんとかなっちゃうかもしれませんね」
「何を言ってるんですか、武装したグリード軍の残党相手に、たった一人で……」
「そうですね、あのヘタレに戦うことなんて無理でしょう。でも、戦わなかったら?」
また二人は顔を見合わせる。しかし驚きはなかった。
「皆さんわかってるんじゃないですか? この峡谷に来てからののほほんとしたこの有様。一機さんも見当がついてるからこそ――こんな大それたことをやろうとした」
ニヤリ、と笑った顔に怖気が走る。こちらの心の奥まで見通そうとする隻眼が異様に冷たく輝いていた。
「……たしかに可能性はあるが、普通に考えてあり得ないだろ。そんな憶測で隊を動かすなどできるわけがない」
「ですね。だから一機さんは一人で行ったわけだし。ま、もっとも……」
ふと、麻紀はこちらから視線をそらし、何故か昨日温泉が湧き出た崖崩れの辺りに目を向けた。
「仮にその予想が当たっていたとしても、あのお間抜けさんのことだから自滅するでしょうけど」
***
それより数刻前。一機が親衛隊から抜け出して数時間が経過したところ。
「……少しは明るくなってきたか。だけど、やっぱ携帯のライトじゃうすぼんやりとしか見えんなあ」
愚痴をこぼしつつ歩いている一機。そのスピードは遅く、早くも疲れが見て取れた。結構ゆるやかにもかかわらず、半ニート生活者の一機にフリーロッククライミングはきつかったらしい。
今一機が歩いているのは峡谷の上にあたる。MNでは登ることもできず仕方ないからシルヴィア軍は下を通らざるを得なかった。当然である。まさか鋼鉄の巨人相手に生身なんて馬鹿はいない。
故に、一機は悠々と――本当はちょっとビクビクしながら――進んでいた。そう、上の方に罠はないとタカをくくったのだ。
そしてただ一人敵地へ向かうのも考えなしではない。これまでに得られたあらゆる情報を元に立てたある推測がなければ行わなかったろう。その一つがあの石ケンだった。
「……あの石ケン、さして土がついていなかった。崖の上にあったのがたまたま転がり落ちてきたなら土まみれじゃないと変だし、そもそも携帯に向かって飛んでくるわけがない。となると……ん?」
ふと足元を見ると、地面に何か薄い出っ張り様なものがあった。
腰を下ろしライトを当てると……
「――やっぱりな」
一機はニヤリと顔を歪ませる。お目当てのものが見つかった会心の笑みだ。
つまり、真新しい何者かの足跡が。
「そりゃ、石ケン持って露天風呂に入ろうってんだから、そう遠くからわざわざ来るわけないよな」
仮にあの温泉が誰かが前々から掘りあてていたものなら、石ケンがあるということは今も使われている証。しかし上にはそこ小屋の類は存在しなかった。となれば答えは一つ。
グリード軍の残党は、入浴にわざわざ訪れるくらい近くにいる。
そしてあの時も、石ケンを投げつけた時も入ろうとしていた。そしたら露天風呂が壊れていたから怒って投げたんだ。無理ないけど。
「しかし、なんで入口から入ったばかりこんなとこにいるのかね? 普通に考えれば、前線基地の一つってとこだが……う~ん」
近くにいることは確信していたが、一機のもう一つの推測はまだ疑念が多かった。それこそ単独で飛び出してきた理由ではあるが、どうにもかみ合わない。
「他に考えられるとすれば、こんな入り口付近に基地を作らないといけない明確な“理由”があるってとこだが、う~ん……ま、こんなとこで悩んでてもしょうがないか」
結論が出ない思考をしてても不毛だと切り捨て、一機は足を出す。普段臆病すぎるほど臆病で行動しない男らしくなかった。
「――ひょっとしたら、やっぱり現実味ないのかな。まだゲームやってるつもりなのかも、はは……」
乾いた笑いが荒涼とした大地に滲みて消えていく。今更ながらやはり自分は楽しんでるのではないかという気がしてきた。
ゲームと同じ名前の世界、国、大地。ヘレナたちの衣服や食事、食器などから見た感じでは中世ヨーロッパ辺りと思われる時代観に合わない巨大な怪獣と人型ロボット。どれもこれもが一機からリアリティを奪っていた。本当にゲームの世界に迷い込んだんじゃないかとワクワクすらしている。
不謹慎ながら、麻紀のケガだってイベントの一つで、ここから『魔神』を手に入れるルートに入ったんじゃないかと思えてくる。上手くいかなかった際は、『GAME OVAR』とでも表示されるだろう。
あの少女だって、高いところから落ちたり体が大きくなったり小さくなったり、動物と会話をしていても楽しんでいたではないか。そして最後は夢から覚めるように目覚めた。そう、現実に戻っていた。
一機は、それが不安と恐怖を誤魔化すための現実逃避であることを悟ってはいなかった。
「……ま、こうなりゃトコトンやるまでさ。毒を食らわば……ん?」
ふと、足元の土が盛り上がった。そしてボコっと何かが顔を出す。
「ぬわっ!」
土の中から何か出てきた。とんがった鼻をして、目は小さくて、手がなんか硬い爪をしているってこれはどう見ても、
「――モグラ?」
そうとしか表現できない生命体だった。地面から半分顔を出して周りをキョロキョロしている。騒いでたので驚かしたのだろうか?
「いやしかし、こうしてみるとちょっと可愛いなこいつ。なんかもふもふしてそうで……うい」
なんとなく和んでしまい、ちょっと指先でつついてみる。が、
「……だっ!?」
鋭い痛みを感じて引っ込めた。指から血が流れている。
モグラに目を戻すと、フーとこちらを威嚇し体毛が逆立っている。
「……針? モグラつーよりハリネズミなのか。野生動物を無警戒に触るもんじゃないな」
指の先を舐めて血を拭う。わりと深く刺さったようで血がなかなか止まらない。モグラorハリネズミはまた地面へ潜っていった。
「いかんいかん。敵地へ潜入するというのに気が緩み過ぎだ。もうちょっと緊張感持ってやらないと……おろ?」
かくんと片膝をつく。別にどこにも引っかかってないのに転んだみたいだ。
「はて? 日頃の運動不足が祟ってロッククライミングでもうバテたのかな。やれやれ、しっかりしろよ俺の体」
どっこいせと立ち上がり、再び歩き出す。さっきよりは明るくなってきて、足跡もだいぶ明快に見える。
「さて、もうそろそろだといいんだけど……徒歩で温泉入るんだからそんな離れてることはないだろうが……ま、後は運次第か」
ふと、首にかけているネックレスを取り出す。出自がヘレナの母上たる女王陛下で王冠と剣、軍事国家らしいエンブレムからして王宮ゆかりのものだろう。あんな気軽に渡したからには安物と考えるべきだが。
「まあ幸運のお守りならそれに期待するのも一興……ってちょっと待て、こっちじゃ金より銀の方が価値高いんじゃなかったか? すると……はれ?」
がくんとまた膝をついた。今度は両膝どころか前のめりに倒れそうになり、四つん這いのように両手で支えた。
「ん、え? なんかおかし……」
体を支える両腕がピクピクいっている。気がつけば全身が震え、力が入らない。
「え、え? として、こんな……」
口も上手く動かなくなり、ついには地面に倒れてしまう。さっきのように疲れが足に来たなんてものじゃない。明らかに異様だった。
困惑しながら手の平に視線を向けると、そこにはまだ血が流れてる傷跡が。そこでハッとする。
――毒!? しまった!
あのモグラだかハリネズミだかわからない生き物は、有毒生物だったのかもしれない。不用意に触ったせいで毒が回ったのだ。自分の愚かさに愕然となる。
――んなばかな、こんな、こんなアホなことで……
敵にやられるとか、魔獣に喰い殺されるならまだ恰好がつく。
しかしこんな自滅としか言えない馬鹿馬鹿しい死に方なんて絶対に嫌だ。こんな誰もいないところで鳥葬まがいのGAME OVARなんてできるわけがない。どんなクソゲーなんだ。
だがそんな思いもむなしく四肢に力はまるで入らず呼吸は荒くなり、にもかかわらず意識は遠のいていく。
だが恐怖にむせび泣く声も出せない。視界も暗くなっていき、いよいよ死の危機が迫る。
――やだ、こんな、一人で、一人で……! 誰か、誰、か……?
一機は助けを求めようとした。だがそこで、頭の中で声がした。
『――誰がお前なんか助けるんだ?』
「――は、はは、ははは……」
何も出せなかった口から、かすれたような笑い声がした。最後の遺言にはあまりに虚しい、自嘲の笑い。
「そりゃ、こんな奴助ける奴なんて、いっこねえよな、ははは……」
親からも見放された。うっとおしいほど媚びてきた親戚は手のひらを返したように冷たくなり、幼いころからの友人もあっさりと離れていった。
だが彼らを恨んだことなど一度もない。
だって、全ては水から招いた種。自分の今ある、そしてこれからも続いていくだろう楽園(せかい)などただの妄想に過ぎす、一瞬で崩れ去るほど弱い代物だと気付きもせず怠惰に生きた自分の愚が原因なのだから。
だけど本当は戻りたかった。あの楽園へ。それが叶わぬなら、別の楽園へ。あの少女のように戻る現実(せかい)がないのなら、永遠に、そこへ留まれると思うから――
だというのに、ついた楽園(あたらしいせかい)ではこの体たらく……本当に、情けない。
いったい何が、誰が悪かったのか――それは、考えるまでもないか。
その時、ザッザッと足音がした。
「――!」
こんなところに誰かいるわけない。
ではまさか――死神の足音というのじゃあ、なんて働かなくなってきた頭で戦慄する。
ついに年貢の納め時というものか、と一機は覚悟した。
仕方がない。現実逃避と怠惰がウリの男が人生の最後の最後で見栄を張ろうとして上手くいくわけがない。こうなる運命だったのだ。いやいっそ、もっと早くこうすべきだったのかも。
そしたら、あんなみじめで空虚な日々を過ごすことはなかったから――
「……冗談じゃねえ」
その言葉は、意識とは無関係に飛び出してきた。一瞬自分が言ったのかわからなかった。
「あいつ、助けてないのに……助けてくれた恩、何もしてないのに……死ねるか、死ねるわきゃ……!」
薄れゆく意識の中、肉体は閉じようとするまぶたを必死に開き、感覚が失せた両手を動かしてまで足音から逃げようとする。
何故自分がこんなことをしているのか、意識では生存を諦めたはずの体を何が突き動かしているのか、その衝動の源を一機は理解できなかった。
しかして一機の肉体は細動叶わず、結局そのまま崩れ落ちる。
――ド畜生。
悔しさと歯がゆさの中一機の意識は闇へ落ちてゆく。やはり自分には何もできなかったと己に憎悪すら抱きながら。
――なんなのアンタ?
そう最後に胸の奥に落ちた言葉に、一機は心でこっちが知りたいと返しながら意識を失った。
その質問が自分が発したものなのか否か、一機には知る余裕はなかった。
「……おかしなところがある? どういうことだ?」
時間を戻し親衛隊キャンプ。隊長宛に隊員から通信が突如入ったのでヘレナは応答していた。
(とにかく隊長来て下さい! 異様なところを見つけて……!)
一機を(嫌々ながら)捜索していた隊員があわてて通信してきた。その様子を麻紀は不思議なものを見るようにしていた。
「……あれ、ヘレナさん石と会話しておかしくなったんですかね」
「あれはただの石じゃありません。『ジスタ』と呼ばれる霊石の一種です」
ヘレナの手に握られていたのは、黄土色の長方形で角ばった手のひらサイズの石だった。それに向かって言葉をかけ、その石から声がしてくる。別世界から来た麻紀からすれば珍妙極まりない光景だ。
「あれは同じ『ジスタ』と声を繋げることができるのです。さすがにあまり離れていては聞こえませんが、ある程度なら障害物があろうと声を伝えることができますのでMNには必須の装備です」
そういえばと麻紀は思い出す。初めてこの世界に来てMNに乗った際、コクピットにある箱の中からヘレナの声がした。電気もない世界に無線でもあるのかと不思議がっていたが、あれはこういうことだったのか。
「特定の相手とも会話できるんですか?」
「石に術式を書けば。ただ、時たま何処とも知れない音を拾ってしまいますがね……」
携帯電話というより無線機なのかと麻紀は判断した。周波数が安定してなくて聞こえてしまうなら、盗聴とかにも便利だろうなぁ……なんて腹黒なことまでこの女は想像してしまう。
なんて話していると、ヘレナが残っていた隊を率いて動き出した。通信のあったその妙な所へ実際行ってみようということだろう。ヘレナが陣頭で進み、グレタと麻紀は少し後方から《マンタ》に乗ってついていった。
「……グレタ副長。一ついいですか」
「はい? いきなりなんですか?」
「教えてくれません? ――ハンスについて」
「っ!? ど、どこでその名前を!?」
「一機さんが呟いてるのを聞いたのです」
ギョッとしたグレタに二人が会話しているのをのぞいていたなどおくびにも出さない麻紀。麻紀にとって嘘とは鼓動とさして変わりなかった。
「――あの男は何と?」
「昔振られた男の名前かなぁなんて愚痴ってましたが」
「ふらっ……! そ、そんなわけないでしょ!」
真っ赤になって怒ったグレタに内心にやりとする。無論一機はそんなこと一言も言っていない。こうすれば話すだろうと考えた麻紀の罠だった。
そして麻紀も、ハンスなる人物がヘレナとそんな生ぬるい関係の人物ではないと察していた。
やがてグレタははあとため息をつくと、「……他言無用でお願いしますよ?」と前置きを述べ、椅子代わりの木箱に二人腰掛けた上で語り出した。
「――弟ですよ。ヘレナ様にとってハンスという男は」
「弟? ヘレナ隊長は二人姉妹じゃありませんでしたっけ」
「ええ。血のつながった弟じゃなくて、弟分といったところだったんです。シルヴィア貴族名門中の名門ゴールド家の末弟ハンス・ゴールドは」
女王になれるのがたった一人とて歴代女王も全て女子一人ずつ産んだわけはなく、当然兄弟姉妹というのはいた。
そういう女王になれなかった王子や王女は貴族たちと婚姻関係を結ばせられる。特にシルヴィア建国時からシルヴィア一世に仕えた者達の末裔などの名門貴族たちとは関係を強化するためにも婚姻は必要なことだ。
ゴールド家もそういった名門貴族の一つ。つまりヘレナとは少々遠い親戚関係でもある。
「そのゴールド家の息子がハンスでした。彼は幼いころパーティでヘレナ様と出会い、仲良くなりました。まあゴールド家は当時貴族内で発言権が薄れていましたから、関係を深めたい家の人間がけしかけたんでしょうが」
「グレタ副長もそうなんですか?」
「……聞きにくいことをはっきりといいますね。ええ、ヘレナ様とは子供の時侍従として仕えていました。まあ、お互い小さかったから遊び相手みたいなものでしたけど」
ヘレナとハンスも、家の都合など理解できるはずもないからそのまま仲良くなっていった。利害関係など全くない友人、いや姉と弟のような仲になる。
小さいころからダンスや勉強より体を動かすことや剣術が好きだったヘレナは騎士を目指すようになる。弟分のハンスが遅れてついていったのは自然だった。自分も騎士になりヘレナ姉様を守ると宣言したハンスにヘレナは喜々として剣を教え、ヘレナはハンスの師匠となった。
「男子が騎士になるのはシルヴィアでは普通ですし、騎士出身なら女性上位のわが国でもそれなりの地位につけます。ゴールド家も侍従として傍にいさせることは利が大きいと判断したのでしょう、ヘレナ様の意に任せました」
「はて、そのハンス君ってのはいくつだったんですか?」
「え? そうですね……ヘレナ様とは七歳くらい離れていましたか」
「おやおや、ヘレナさんも凛々しく見えて実はショタコンだったんですね。そんな若いツバメ捕まえるなんて」
にやにや笑った麻紀にグレタは眉をひそめた。
「ショタ? ショタとはなんのことです」
「う~ん、定義はちょっと難しいですが、誤解を承知で説明すると、要するに幼くて可愛い男の子にあんなことやこんなことをイチャコラしたい人のことを指しますね」
グレタは荷台から転がり落ちた。あやうく《マンタ》に踏み潰されかけたが、なんとか回避して息を乱して荷台によじ登った。
「な、な、何を言いますか突然!」
「えー私はてっきりそうなんじゃないかと」
「ば、馬鹿なことを! たしかにハンスはクリクリッとした目でちっちゃい背も相まって愛らしいとメイドたちにも評判……ってだから違います!」
もしかしてショタコンはこの人かなぁと思っているが、話にならないので続けさせた。
「ったく……まあ、ゴールド家はあわよくばなんて考えがあったのは間違いないでしょうが、ヘレナ様がどうだったのかはわかりませんね。本当に仲良しの姉弟にしか見えませんでしたから。あの方は他に親しい人もおりませんし、そうなるのは自然ですがね」
「? はて、お姉さんいるんですよね? 仲悪いんですか?」
「いいえ、姉妹の仲は良好なのですが……その、周りが」
「周り?」
「王位継承者が双子の姉妹なんて、面倒なだけですからね」
麻紀もなくとなく察する。同時に生まれた姉妹なのに王位継承権は一位と二位の差がつく。それにつけこんで野心を企てる者が不遇の妹を持ち上げて――なんというのは、麻紀の世界では歴史上飽きるほど行われたことだ。どうやらシルヴィアでもさして変わりがないらしい。
「ヘレナ――様が騎士となり親衛隊に入ることを決めて早々と継承権を返還したのは、そういった輩が騒ぎ立てないようにするためです――いや、そうさせられたとすべきでしょうか。勿論、騎士になるのが嫌なわけではないですが……」
だからと言って、タッチの差で生まれた姉の邪魔にならないようわざわざ影として生きることを強制されればそれは陰鬱な物を抱えて当然だろう。仲が悪くないとはいえ、溝ができてしまった。
「……豆殻で豆を煮る、ですか」
「なんですかそれ?」
「いえ別に」
兄弟間で酷く憎みあい傷つけあうという中国の故事を思い出した麻紀。
――そういえばあの人も似たような境遇でしたね……
あの元来人見知りで人間不信の男が最初から普通に話せたのは、もしかして――なんて考えていたが、ここは話を戻すことにした。
「それで、そのハンス君とやらはいくつなんですか?」
「――生きてれば、十七歳。あいつと同じ年齢ですね」
「亡くなったのですか?」
これまでのことから察していたのでそこに麻紀は驚かなかった。
しかしグレタの答えは意外にも、困ったかのような失笑だった。
「……その方が、都合がよかったのかもしれませんね、ヘレナ様には」
「え?」
「行方不明なんですよ。一緒に遠方へ出向いた時に山で崖崩れに遭いましてね。もう六年も前になりますか」
「崖崩れ……」
「聞くところによると、ヘレナ様の目の前で落ちていったそうですよ?」
唯一の気兼ねなく話せる弟分、そしてゴールド家より預かっていた大事な息子さん、将来が楽しみな騎士見習い。それら全てを一瞬で失った絶望はいかほどのものか。傍にいたのに助けられなかった自分をどれだけ呪ったか。しかも遺体は見つかっておらず、諦めることも忘れることもできない。ただ自分の不実を苦しみながら、生存という絶望的な希望を信じなければならない身。この六年間苦悶の日々を過ごしたのだろう。
「……それじゃ、一機さんとそのハンス君は似てるんですかね?」
「はぁ!? まさか、これっぽっちも似てませんよ! あんな生意気で陰気なスケベ野郎と一緒にしないでください! 第一ゴールド家は王国誕生以来続く名門貴族、そこらの平民でしかないアマデミアンとは比べること自体おかしいんです!」
ああ、この人に一機さんの家のこと話したらどんな反応するかなぁ、多分とんでもなくびっくりするだろうなぁ、などと思っていると、
「――でも、思い出してしまったのは事実でしょうね」
さっきまでの剣幕を失せて、呟くようにグレタは口を開いた。
「あんなヘレナ様を見たのは、久しぶりでしたから……おや?
ふと、《マンタ》が突然停止した。どうやら目的地に着いたらしい。
「グレタ、ちょっとこっちに来てくれ!」
「は、はいっ!」
ヘレナに呼ばれあわてて飛び降りる。角を曲がった向こうに何かあるのか。
「……ふう」
ため息をかけ、木箱に腰掛け直す。目の前にはグレタが腰かけていた木箱が。そういえば、数日前ここを訪れた時のヘレナもこれに座っていたような。
「なるほど、だいたい予想はついていましたが、おかげでよくわかりました」
弟を失った悲しさ――どうもそれだけではないようだが、これも親衛隊をみていれば想像つく――に打ちひしがれている時にどんな奴でも同じくらいの少年が突然現れればそれは嬉しかろう。まるで無くした玩具が帰った来たような気分になり、浮かれてしまうのも無理はない。
王家という狭苦しい家柄に生まれ、抑圧されてきた人の苦しみは麻紀にはわからないが、その寂しさと悲しみは同情できなくもない。一機を重ね、遠き思いでの日々を取り戻した気になってしまうのも無理からぬことだろう。
「……っざけやがって」
すっと立ち上がり、目の前にある木箱を思い切り蹴り飛ばした。
寝床のドアにぶつかった木箱は木っ端みじんになり、《マンタ》が何事かと驚いて少し揺れた。
「てめえの寂しさ紛わせのお人形さんごっこに、一機さん巻き込んで……一機さんだって、なんであんなのに……」
自由な右手で三つ編みの先にあるアクセをいじる。向日葵の形をしたこれを、麻紀は季節問わずいつもつけていた。
それから麻紀は、包帯を巻かれた――二度と何も写すことのない右目をさする。別に痛くはないが、こうして触るとちゃんとある目が使えないというのは不思議な気分だ。
「別に気にしなくていいのに、こんな目のこと。私は……」
と、そこに悲鳴のような声が上がった。
「な、なんですかこれぇ!?」
声の主はどうやらグレタらしい。気になってそこへ向かってみる。
角を越え、声の元へと行ってみると……
「……なんですかこれ」
麻紀すら驚きを隠せない異様な光景が広がっていた。
そこにあったのは、まあ今まで通り罠だった。落とし穴だったり細い紐に引っかかると上から岩が落ちてくる仕掛けだったり、横に穴が開いていて矢でも飛び出してきそうなからくりや、鎌がしゃんしゃんと左右に揺れて斬り殺さんとする忍者屋敷さながらのものまで盛りだくさんだった。
だが問題は、それらが全て剥き出しで、足の踏み場もないほど敷き詰められていることだった。用意周到なのは結構なことだが、これでは進軍してきた相手を引っかける罠の役目がまるで果たせないではないか。
「蛮族の残党は何をトチ狂ったのでしょうか、こんな丸出しの罠にかかるものなどいるはずがありません」
「……ということは、最初から罠にかけるための罠ではないということか」
「足止め、ですか」
これだけの罠を無力化しつつ進むのは相当骨が折れる。あちら側にとっては体勢を整える時間稼ぎにもなるだろう。敵軍に侵攻を諦めさせる見せしめ的な役目もあるのかもしけない。
「しかし、これだけの罠では自軍が進むことすらままならないではありませんか。人間はともかく、MNは動けませんよ?」
「ああ。それに、ここ一か所だけに罠を集中させたりして……この先に何かあると言っているようなものではないか」
「あるいは、そんなこと気にしてられない事情でもあるのかもしれせんね」
「わっ!」
また二人の間に割って入った。もうビックリさせたのは何度目だろう。
「く、くそっ、また気付けなかった!」
「……何か楽しんでませんあなた方?」
「なわけないでしょう! それで、なんですか気にしてられない事情とは?」
「単純な話、罠以外頼るものが何もないんじゃないですか、ってことです」
ヘレナとグレタはまた渋い顔をした。二人も麻紀と同じ推測をしているが、確証が得られないので言い出せずにいるのだ。ため息をついた麻紀はまた進言する。
「で、こんな罠馬鹿正直に通るつもりですか? おとなしくどこか別の道を探すべきでは?」
「ダメだ、恐らく敵はここにいる」
え? グレタが呆気にとられる。まあ彼女もそれは予想していたろうが、こんな断言するとは思わなかったのだろう。
「どうしてそんなことが? 単なるデコイの可能性だってあるじゃないですか」
「ないな。囮だったらもうちょっとわかり辛くやるだろう。こうもあからさまなのは、逆に相手に疑念を抱かせて外れさせるからだな。――お前とて、そう考えているのではないか?」
「……っ」
「で、ですがヘレナ様、ここはまだ峡谷の入り口ですよ!? こんなところに敵の基地があるわけが……」
「たしかにそうだな。だが、この向こうに『炎の魔神』があることはほぼ間違いあるまい」
「――どうして、そう言えるんですか?」
「簡単なことだ」
そう言うと、ヘレナはふっと笑って、
「一機も、そう思ったから飛び出したんだろ?」
「っ!」
不敵な笑みに、今度はこちらの心の奥底をのぞかれた気がして息が詰まる。
つまり、親衛隊をここから離れさせ、一機に手柄を取らせてあげようとした自分の思惑を。
「よし、全隊員に進軍命令。罠を潰しながら進むぞ」
「は。しかし、これだけの罠、時間がかかりますね。全て壊すのは夜明けまで必要かと」
「なるべく急がせろ。時間はあまりないからな」
「了解しました」
わざわざ追い立てるような指示をした時、麻紀は悟った。
ヘレナは一機を助ける気だ。だから早く罠を突破するよう指示を出した。
異世界からの友人を救おうと無謀へ突き進んだ男を助けるために――
「……勝手を」
そう隊員たちが峡谷突破へ駆けている中、一人ポツンと突っ立っている麻紀はギリリと歯ぎしりした。
そこでふと、前で声を張り上げて隊を指揮しているヘレナから、ヘレナとは違う別人の声がした。首を傾げるものの、すぐにさっき説明された『ジスタ』を思い出す。
「ヘレナさん、通信入ってますよ」
「ん? おっと、すまないな……ああ、なんだどうした? ……ん? おい、聞こえてるのか? おい、おーい?」
電波の届かないところで使ってる携帯のような仕種をしているヘレナ。よっぽど遠くにでも行った者からだろうか。
「うん? 誰だこれは。皆この場にいるはずだし……こちらへ連絡しているわけではないのか? どこかの『ジスタ』からの声が漏れだしているのかもしれん」
「通じないんですか?」
「いや、聞こえはするがかなり小さいな……相手が遠くにいるか、『ジスタ』がよほど小物か……あっ!」
突然ヘレナはハッとして、『ジスタ』を耳につける。
真剣な顔をして石を耳に押し付けるヘレナにびっくりした麻紀は「ど、どうしたんですか?」と尋ねるが、ヘレナは「しっ!」と黙るよう促した。
親衛隊が罠撤去に奔走している中、その場だけ異様な静寂が存在していた。
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