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一般的にいって、イギリスの研究所は日本よりもはるかにセキュリティチェックが厳重です。たとえば、研究所の正面入り口から筆者のオフィスへ入るには、下の写真のように、IDカードをスキャンして、暗証番号を入力するゲートを途中3箇所も通らなければならないほどです。日本でいうと「風雲!たけし城」のように、数々のチェックポイントをくぐり抜けなければ中心部へ到達できないうえ、少なくとも「たけし城」守備軍の安っぽい水鉄砲よりは効果的に部外者の突入を食い止めるものと思われます。また、オフィスにもさまざまな犯罪防止策があります。たとえば、ノートパソコンにはすべてセキュリティワイヤーが取り付けられていて、勝手に動かせないようになっています。「たけし城」で言えば、「相撲でポン」のクジがすべて元二子山部屋所属の忍竜、というくらい、絶対に攻略不能な万全の防御体制といえるでしょう。しかし、そんなラボにおいて、衝撃的な事件がおきてしまいました。幸い筆者ではないのですが、ミーティングで1時間ほど部屋を空けている間に、なんと同僚Jさんの携帯電話がオフィスから盗まれてしまったのです。つい先日、安倍なつみ盗作事件で大きな衝撃を受けたばかりだというのに、ショッキングな出来事は続くものです。これが「たけし城」であれば、谷隊長のように「よくぞ生き残った。我が精鋭たちよ。」と声をかけたいところですが、携帯を盗まれたのではたまったものじゃありません。きっとその泥棒さんは「相撲でポン」で運良く城みちるを引き当てたのでしょう。さて、ここからちょっとつまらなくなるかもしれませんが、大事な話なのでまじめにいきます。日本では携帯電話を盗まれる心配をする人はあまりいないと思いますが、実はイギリスでは携帯電話の盗難被害が非常に多く、社会問題になっています。というのも、イギリスの携帯はヨーロッパで主流のSIM (subscriber identity module)カード方式。これは機械内部に切手の半分ほどの大きさのICカードが組み込まれているのですが、ここに電話番号や契約情報、電話帳などの情報が格納されているので、SIMカードさえ取り替えれば他人の携帯でも自分の携帯のように使えてしまうし、転売することも比較的容易なのです。そういった事情から、たとえば夜道で携帯で電話しながら歩くことは、日本とは逆にイギリスでは決してしてはいけないこととされています。イギリスでは、携帯で話している最中にまさにその携帯をひったくられる、という事件がたびたびおきるのだそうです。というわけで、オフィスの中でも財布などの貴重品はもちろんのこと、日本と違って携帯電話も決して目に付くところに放置しないよう気をつけなければならないようです。身近でこういった事件が起こると、自分もそのうち被害に遭うのではないかと心配になります。そしてもう一つ心配なのは、今回のたけし城ネタは20代前半以下の読者にはまったく意味不明なのではないかということです。
2004年12月14日
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日本では、近年自殺件数が急増していることが社会問題化しています。このニュースはBBCニュースでも取り上げられたほどでしたので、イギリス人にも関心をもって伝えられたようです。毎日新聞の伝えるところによると、昨年の人口10万人当たりの自殺者数は約27人となり、これは先進国で最悪の水準なのだとか。ではイギリスではどうなのだろう。また世界は・・・、と思い調べてみると、ちょっと古いですがドイツのヴュルツブルグ大学が行った世界82カ国の自殺率の国際比較(87年~97年のデータ)をみつけました。そこで、その男女平均と日本の最新のデータから、ちょっと大雑把ですが以下のような自殺率(人口10万人当たりの年間自殺者数)の順位表をつくってみました。結果は以下の通り。1 リトアニア 48人2 ロシア 44人3 ラトヴィア 43人4 エストニア 40人5 ハンガリー 37人6 スリランカ 33人6 ベラルーシ 33人8 スロベニア 29人9 日本 27人9 フィンランド 27人11 ベルギー 25人11 カザフスタン 25人13 クロアチア 24人13 ウクライナ 24人15 オーストリア 23人16 フランス 21人16 スイス 21人18 ルクセンブルグ 19人18 チェコ 19人18 モルドバ 19人21 デンマーク 18人21 ブルガリア 18人23 中国(一部地域のみ) 16人24 ドイツ 15人24 スウェーデン 15人24 ポーランド 15人27 カナダ 14人27 オーストラリア 14人27 キルギスタン 14人30 ノルウェー 13人30 ニュージーランド 13人30 スリナム 13人33 アメリカ合衆国 12人33 オランダ 12人33 シンガポール 12人33 香港 12人33 モーリシャス 12人33 ルーマニア 12人33 トリニダードトバゴ 12人40 アイルランド 11人40 ウルグアイ 11人42 アイスランド 10人42 韓国 10人42 プエルトリコ 10人42 エルサルバドル 10人46 ポルトガル 8人46 イスラエル 8人46 ジンバブエ 8人49 英国 7人49 イタリア 7人49 スペイン 7人49 アルゼンチン 7人49 セントルシア 7人54 ウズベキスタン 6人54 トルクメニスタン 6人54 バルバドス 6人57 マルタ 5人57 チリ 5人57 エクアドル 5人57 ベネズエラ 5人61 ギリシャ 4人61 コスタリカ 4人61 タジキスタン 4人61 グルジア 4人65 ブラジル 3人65 メキシコ 3人65 トルコ 3人65 バーレーン 3人65 パラグアイ(一部地域) 3人65 パナマ 3人65 アルバニア 3人65 アルメニア 3人65 コロンビア 3人65 ニカラグア 3人75 クウェート 2人76 ジャマイカ 1人76 ペルー 1人76 アゼルバイジャン 1人76 バハマ 1人76 ベリーズ 1人81 エジプト 0人81 セントビンセント アンド グレナディーン 0人82カ国平均 12人さて、これを見ると、日本は82か国中9位、とかなり自殺率が高いことが分かります。日本より高い国を見ると、旧ソビエト連邦(特にロシアやバルト3国)が際立って多いのが目に付きます。また、ハンガリーなど東欧諸国は比較的自殺率が高いようです。先進国だけで見ると、日本がトップですが、フィンランド、ベルギーはほぼ同水準と言っていいでしょう。この表から一定の傾向を見出す、というのはちょっと難しい気もしますが、いくつか言えることはありそうです。 まず、所得の多さ、というのはあまり関係なさそうに思われます。近年の日本における自殺の増加には、不況による経済苦が原因としてよく挙げられていますが、日本より経済難な国のほうがよっぽど多いわけですから、それを必ずしも第一の要因に挙げるのは適切でないように思います。一方で、例外もかなりありますが、高緯度ほど自殺が多い、というのは傾向としては正しいように見えます。これは、やはりよく言われるように、日照時間が少ないことが精神状態に大きな影響を与えるということを示しているのではないでしょうか。また、宗教も含めた地域的な文化の違いによる面も大きそうです。というのも、聞いた話によると、ハンガリーなどでは身寄りの無い老人が自ら山に入って命を絶つ、という風習が古くからあるのだそうです。一方でイスラム諸国がそろって少ないのも、イスラムが自殺を禁止している、という宗教的理由によるようです。ちなみに、BBCニュースでは、日本の自殺が多い要因として、失敗したときに命を絶つことで責任を取ることが美徳とされている、と解説されていました。確かにそれも否定できない部分もあるかもしれませんが、100年以上前の1900年の自殺率は13人、8年前の96年においても14人と、それほど多くなかったことを考えると、ここ数年の顕著な増加は文化的な風習とはいえない要因があるのではないでしょうか。この自殺問題は毎日新聞の社説にも取り上げられていましたが、そこには以下のように書かれていました。ーーーーーーーーーーーーーーー・・・「勝ち組・負け組」といった流行語に象徴されるように、いつの間にか人生を勝負事や他人との競争とはき違えるような風潮が広がっていることが、人々の失意や挫折感を増幅している面も否めない。(中略) 自殺者の多くが心の病気におかされていることを踏まえれば、精神科医療の充実はもちろん、精神科の患者に対する偏見を一掃し、精神科の敷居を低くする工夫なども求められている。(中略)自殺は弱い者の選択、といった考え方は捨て、自殺願望者をこの世に踏みとどまらせられない非力さを省みよう。何よりも若者までが絶望感を抱き出している社会の現実を問い直したい。ーーーーーーーーーーーーーーー確かに、近年の日本はアメリカ型の競争社会の原理を導入して不況を乗り切ろうと懸命になっていましたが、その一方で弱者に対するケアはなおざりにされてきたことが背景にあるのではないでしょうか。よく「自殺するのは勝手だけど中央線にだけはどびこまないでほしいよ」なんてコメントを耳にしますが、日本があまりにも弱者に冷たい社会になってしまった、という気がします。さて、一方でイギリスの自殺率は、イタリア、スペインなどと並んで82か国中49位。世界全体の中で際立って低いわけではないですが、82カ国の平均値12人よりはかなり下回って7人となっています。これは周辺国のフランスやドイツよりもかなり低いばかりでなく、先進国の中では最も低い水準ですし、日照時間が多いとはいえない国にしてはかなり健闘しているといえるのではないでしょうか。筆者はこの要因を断言できるほどイギリスに詳しいわけではないのですが、なんとなく納得できるような気もします。というのも、少なくともイギリスにはフラワーレメディなどのように心を癒す、ということにとても力を入れる文化がありますし、仕事よりも生活を中心に生きている人が多く、比較的ゆとりある暮らしをしているように見えるからです。さて、BBCニュースによると、イギリスではもう一つ、自殺件数の増減に大きく関わっているファクターがあるそうです。なんでも過去のデータを調べてみると、なんと保守党政権のときより労働党政権の時のほうが自殺率が減る傾向にあるんだとか。シドニー大学のテイラー教授は、これについて、「英保守党政権は市場重視の政策をとるのに対し、労働党政権のほうが社会的弱者に希望を与える政策をとる傾向があるためですな。」と解説していました。イギリスは日本に比べて、ストライキ権など労働者の権利を重視する社会なので迷惑を受けることも多いですが、こんな隠れた効用もあるのかもしれませんね。
2004年08月08日
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日本ではすっかり国民的なブランドとなった衣料品店・ユニクロを運営するファースト・リテイリング社が、昨日、新たに韓国にユニクロを出店する計画を発表したそうです。これでユニクロの海外出店は、イギリス、中国(上海)についで3か国目となりますが、実は記念すべき海外1号店があるのが、ハロッズなどがならぶ下の写真のロンドン・ナイツブリッジです。しかし、これまでのところ同社のイギリス進出は決して順調な歩みとはいえないようです。2001年に華々しくロンドン・デビューし、一時は21店舗まで拡大したものの、巨額の赤字を計上。現在はリージェント・ストリート店やオックスフォード・ストリート店など6店舗を残すのみとなっています。悲しいかな写真の店舗も、この夏に閉店してしまい、すでにありません。これについては、同社会長の柳井正氏の著書「一勝九敗-ユニクロも失敗ばかりだった」(新潮社)に面白い回顧録が書かれていました。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイギリスでの失敗は、経営者の選択に原因があった。海外の現地法人は現地の人が経営をしないとうまくいかないと考えていたため、紹介されたイギリスの老舗デパートでの勤務経験のある人を社長に採用したのだが、イギリスの文化の反映もあって、保守的な経営陣や組織になった。 経営者から店員まで、それぞれに階級・階層をつくり、壁ができてしまった。現場の社員だろうが社長だろうが、壁をつくらず対等に、みんな一緒になって話し合って実行する当社の企業風土からはほど遠いものだった。店は汚く、店舗社員の訓練もぜんぜんできていない。社長に注文をつけても、「できない理由」を並べる。ユニクロの商売をイギリスで実現できなければ意味がない。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイギリス在住者としては、いかにもありそうだ、と頷いてしまう話ではないでしょうか。孫子の教えに「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉がありますが、いくら敵を良く知る人選を行っても、自分たちの良さが消えてしまうようでは意味がないということです。余談となりますが、筆者は同社のオフィシャルサイトを見て以来、会長の顔が妙に桂小枝に似ているのが気になっていますが、これは孫子の教えとはまったく関係ありません。さて、その点こんどの韓国進出は、日韓の市場を熟知したロッテと共同で行うことのことで、おそらくイギリスでの失敗から教訓を得てのことなのでしょう。このあたりの柳井会長の判断は、「爆笑小ネタ集」でも始めてしまいそうなそのユーモラスな風貌からはイメージできない賢明な判断と言えそうです。イギリスにおける事業縮小も、「再挑戦のための縮小」とのことで、今後の巻き返しに注目したいところ。ロンドンの店舗を訪れると、夏には浴衣をおくなど、独自性もがんばって出している様子が伺えます。というわけで、イギリスに来た際には一度覗いてみるのも面白いかもしれません。
2004年10月13日
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ラブホテルって日本特有のものなのかと思っていたら、なんとロンドンにも近々上陸するそうです。昨日付の「インディペンデント」紙が報じたところでは、イギリス第一号店がロンドンのショーディッチに出店される見通しであることが伝えられています。出店計画を立てたのは、ロンドンでよく見かける回転寿司チェーン「Yo! SUSHI」をヒットさせた実績を持つサイモン・ウッドロフ氏(53)。日本を訪れたときの体験をもとに、回転寿司をイギリスに導入し、成功に導きました。彼はイギリスのベンチャー界きっての注目人物で、ヴァージングループのリチャード・ブランソン会長や、格安航空会社、イージージェットを成功させたステリオス・ハジ=ローノウ会長ともよく比較されるほどの人物です。新しいラブホテルチェーンは、その名も「YOTEL」。まずはロンドンでの3店舗を足がかりとし、その後、全国展開、さらには海外進出までももくろんでいるとのこと。部屋は10平方メートルと小さいものの、回転ベッドや航空機スタイルの照明、最新のテレビ、ブロードバンドなどが設置されます。料金は、1時間10ポンド(約2000円)または一晩75ポンド(約1万5000円)と割安で、4つ星~5つ星クラスのホテルと同等のサービスが受けられるとのこと。YOグループでは、最近、日本のファッションを紹介する「YO! JAPAN」を発足させるなど、新たなビジネスモデルは日本にあり、と考えているようです。常務取締役、グリーン氏は、同紙のインタビューに以下のように答えています。「このホテルは日常的な価格でデザイナーホテルの贅沢さを提供することができるのですよ。ラブホテルは、おそらく日本の文化でもっとも素晴らしいものと言えるでしょうね。男が秘書とこっそりと・・・、なんてシチュエーションで、間違いなくわが社に大きな利益がもたらされることでしょう。」と、早くも鼻息が荒い様子。ただ、ちょっと妄想気味なのが気になりますが。YOTELの部屋の原寸モデルルームは、今月ロンドンのアールズコートで開かれるデザイン展示会でも見ることができるそうです。個人的には、イギリス人にはもっと他に日本から学んでほしいことがあるような気がするのだけど・・・。ちなみに同ホテルのオフィシャルサイトはこちらですが、あいにく、筆者は行く予定はありません・・・。
2004年09月11日
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列島各地で厳しい暑さ、日本海側ではフェーン現象も観測されている今日この頃ですが、みなさまお元気でお過ごしでしょうか?筆者は、夏が終わっても美しいお肌でいられるために、紫外線対策にことのほか気をつけています。それはそうと、しばらくの間更新が途絶えてしまいまして、申し訳ございません。これは「深津絵里 スタイリストと熱愛発覚」のニュースにショックを受けていたから、というのももちろんあるのですが、実は深津絵里よりも深い理由があるのです。実は、この半年ほど共同研究の仕事のためにアメリカと日本を行ったりきたりの生活が続いていて、なかなか落ち着いて日記を書く暇がとれないのでした。すでに今年7回目の日本です。忙しさのピークは過ぎたと思うのですが、9月の中旬にアメリカに戻る予定なので、本格的に日記が復活するのはそれ以降になりそうです。
2006年08月19日
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