第2話


新聞の記事を知ったのは、祖父だった。

「これ、お宅のお孫さんじゃないですか?」
と職場の同僚から言われたのだった。

祖父は、T子たちとは血がつながっていない。
サザエの再婚相手であった。

祖父は家に帰って、サザエに報告。
サザエは、近所の人に格好悪いと思い、
T子たちを引き取ることにした。

迎えに来てくれたのは、祖父。

先生や同級生たちが見送ってくれた。
そして、カンパで集めたお金を渡してくれたのだった。


T子10歳。サザエの家での生活が始まる。


そこに母の姿はなかった。
病気が治った母は、姉と共に住み込みで、水商売をしていたのだ。

サザエは、同級生たちから贈られたお金を奪った。
そして、口減らしの為に、兄弟たちの養子先を探してきた。

まず、2歳の弟2号がもらわれていった。

S子と弟1号も、もらわれ先が決まった。

しかし、S子たちはおねしょをするので、すぐに返される。
するとまた、サザエは違う養子先を探してくるのだった。

S子の何度目かのもらわれ先は、薬の行商をやっている家だった。
学校の成績が悪いと言っては、木刀で殴られていた。

義理父が行商に出ている間に、家を抜け出した。
つらくてつらくて、トボトボと歩いて、家まで帰ってきたのだ。

しばらく家の前で立っていたが、

「ここで困らせたら、お母さんがかわいそう。」

幼心にそう思ったS子は、また、同じ道を帰っていった。

そして、それが義理父に知れてしまい、また木刀で殴られた。


その頃、T子と弟1号は、玄関を入ってすぐの
2畳の板の間で生活していた。

奥の畳の間では、いとことサザエが楽しそうに遊んでいる。

「おばあちゃん、なんであたしたちはそっちに行っちゃいけないの?」

そう問い掛けるT子にサザエはこう言い放った。

「お前たちは、人数が多いし、母親の稼ぎは少ない。
  この子は一人だし、親がたくさん家に入れてるんだよ。」

母と共に水商売をしていた姉は、
客あしらいもうまく、収入も良かった。
その為、姉の娘であるいとこは、とても可愛がられた。

T子と弟1号は、座布団を1枚ずつ与えられていた。
毎日、そこに正座をしたまま、寝るまで過ごしていた。


暖房器具もろくにない当時、冬の板の間は寒かった。

弟1号と抱き合い、暖めあって寝ていたのだ。
しかし、この時がT子にとっては一番幸せな時間だった。

<父と母に囲まれ、たくさんの料理が並ぶ楽しい食卓。>

そんな空想を毎晩毎晩していたのだった。


ある日、サザエのサイフから1000円がなくなった。
サザエは、何も聞かず、ほうきの柄でT子の背中を殴った。

息が出来ない。殺される。
T子は、サザエが恐ろしくて恐ろしくて仕方なかった。

結局、犯人は、サザエの息子だったが、
それがわかったからと言って、サザエはT子に謝りもしない。

そんな謂れのない暴力も日常茶飯事だった。


S子の養子先である薬屋が警察に捕まった。
届出をしていない、もぐりのヤミ業者だったのだ。
サザエは、養子先をきちんと調べようともしていなかったのだ。

居場所がなくなってしまったS子がT子の元に戻ってきた。


☆つづく☆


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