趣味の漢詩と日本文学

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June 15, 2008
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カテゴリ: 漢詩・漢文
王昭君歌 劉長卿
自矜嬌艷色、不顧丹青人。
那知粉繪能相負、卻使容華翻誤身。
上馬辭君嫁驕虜、玉顏對人啼不語。
北風雁急浮雲(一作清)秋、萬里獨見黄河流。
纖腰不復漢宮寵、雙蛾長向胡天愁。
琵琶弦中苦調多、蕭蕭羌笛聲相和。
誰憐一曲傳樂府、能使千秋傷綺羅。
【韻字】人・身(平声、真韻)。虜・語(上声、語韻)。秋・流・愁(平声、尤韻)。多・和・羅(平声、歌韻)。

王昭君の歌。
自ら嬌艶の色を矜り、丹青の人を顧みず。
那ぞ知らん粉絵の能く相ひ負き、卻つて容華をして翻つて身を誤たしめんとは。
馬に上り君を辞して驕虜に嫁し、玉顏人に対して啼きて語らず。
北風雁急にして浮雲(一に「清」に作る)秋なり、万里独り見る黄河の流るるを。
纖腰も復らず漢宮の寵、双蛾長く胡天に向かひて愁ふ。
琵琶の弦中苦調多く、蕭蕭たる羌笛声相和す。
誰か憐ぶ一曲楽府に伝へ、能く千秋に綺羅を傷ましむるを。
【注】
○王昭君 前漢の元帝に仕えた宮女。匈奴の王が美女を嫁に求めたとき、多くの宮女を画家に描かせ、その絵の中から醜い女を選んで匈奴の王に与えようとしたが、王昭君は後宮一の美女であったので画家に賄賂をやらず、かえって醜く描かれ、匈奴の王に嫁した。
○嬌艶 かわいらしげで、かつ、優美。

○那知 どうして知ろう?いや、知るはずもなかった。
○らん粉絵の能く相ひ負き、
○卻 あべこべに。
○容華 顔かたちの美しさ。
○翻 あべこべに。

○辞 別れを告げる。
○驕虜 調子にのっている野蛮人。
○玉顏 美しい顔。
○浮雲 空を漂う雲。
○万里 非常に遠い土地。
○纖腰 腰がくびれて美しいスタイル。
○漢宮 漢の宮中での天子の寵愛。
○双蛾 蛾のような美しい眉毛。
○胡天 北方の空。
○琵琶 ペルシャ・アラブの西域のほうから漢代に中国に伝えられた楽器。胴はナス形で、もと五弦。現在は四弦で、撥を使わず爪で弾く。
○蕭蕭 ひっそりとしいてものさびしいようす。
○羌笛 中国北西部にいた羌族の吹く笛。もの悲しい音色として詩によまれることが多い。
○誰憐 誰がしみじみと感動するだろうか。
○楽府 漢代に音楽のことを掌った役所。
○綺羅 美しい着物を着た美女。

【訳】
王昭君の歌。
おのが容色すぐるるを誇りて、画家を軽んずる。
知らぬ間に顔かたち醜きさまに描かれて、かえって北のえびすの地、骨を埋づむる身となりぬ。
馬の背中にゆられつつ天子に別れ嫁にゆく、玉の顏ばせひたすらに涙ながせど声もでぬ。
北風吹きて雁は飛び雲のただよう秋の空、万里かなたへただ一人さびしく見るは黄河かな。
くびれた腰も漢王の寵愛もどすちからなく、いとうるわしきその眉も愁いに沈む北の空。
琵琶かなづれば悲しげな調べが多く、羌笛の音色さびしく冴え渡り、
誰か憐ぶ一曲を楽府の役所に伝えつつ、千年ののちもうすものを着た昭君を傷むとは。






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Last updated  June 15, 2008 07:49:18 PM
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