趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

March 22, 2009
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カテゴリ: 国漢文
【本文】
廿二日にいづみのくにまでと、たひらかに願たつ。
【注】
●いづみのくに 和泉の国。土佐の国から和泉の国までは、外洋で航行が容易でないことと海賊に襲われる危険がある。
●たひらかに 「たひらかなり」には「A平らなようす。B穏やか。安らか。C無事でつつがないようす。」といった意味があるが、ここではその複合的な意味で使われているのであろう。つまり、「海面が波立たず平らでありますようにと神仏に祈願する」、「心を落ち着けて神仏に祈願する」「平穏無事であいますように」と三つの意味をこめた表現。
【訳】二十二日に、和泉の国までと、なんとか途中で荒波などが立つこともなく無事に着けますようにと心静かに神仏に祈願した。

【本文】ふぢはらのときざね、ふなぢなれど、むまのはなむけす。
【注】
●ふじはらのときざね 未詳ではあるが、藤原氏という貴族の姓であり、国守の任を終えた「ある人」のために「かみなかしも」が「ゑひあき」るほど十分な酒食を提供して送別会を主催すほどの経済力があり、作者は彼に対し特に敬語は用いていないところから、「ある人」に世話になった親しい部下という設定であろう。

●むまのはなむけ もともとは、見送る者が旅立つ者の乗る馬の鼻先を出発する方向に向けてやって旅の安全無事を祈るおまじないだったらしいが、『土佐日記』より成立の古い『新撰字鏡』の「餞」の項に「酒食送人也〈馬乃鼻牟介〉」(酒食もて人を送るなり。馬の鼻むけ)とあるから、すでに送別会の意味で使われていたことがわかる。
【訳】藤原のときざねが、馬には乗らない船旅だが、馬のはなむけ(送別会)をした。

【本文】かみ・なか・しも、ゑひあきて、いとあやしく、しほうみのほとりにてあざれあへり。
【注】
●かみ・なか・しも 身分の上流・中流・下流。
●ゑひあく 十分満足するまで酔う。
●あやしく ここの「あやし」には「不思議だ」と「けしからん」という二つの意味をもたせてある。都の貴族たちばかりの宴席では節度を守るので、酒にやたらに酔ってふざけるなどということはないから、それに比べて送別会の主賓をよそに、ここぞとばかり「ゑひあき」、酒をのみまくる田舎者たちへの侮蔑のまなざしが、「けしからん」という表現につながる。
●あざれあへり ここの「あざる」には「魚が腐る」と「ふざける」という二つの意味をもたせてある。海のそばでも、打ち上げられた魚などはすぐに鳥や野良猫などによって食われてしまうのが常で、港では実際には魚が腐るなどという光景は滅多にないと思われるのに、このように表現されているのは、虚構としての掛詞による言葉遊びか、そうでないとすれば、「魚が腐る」という認識は、普通視覚よりも異臭にもとづく嗅覚によって判断されるものであるから、あるいは「魚が腐ったような異臭を放っている」という言い方で、遠回しに、送別の宴で酔っぱらった者が海のそばまで行ってヘドを吐いているという暗示かもしれない。
【訳】〔その送別の宴では〕身分の高い者も中くらいの者も低い者も、みんないやというほど酔っぱらって、とてもけしからんことに、海のそばでふざけ合っていた。(とても不思議なことだが、保存料である塩のたっぷり含まれている海水のそばで魚が腐っている)。






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Last updated  March 22, 2009 08:45:03 AM
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