趣味の漢詩と日本文学

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December 21, 2010
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カテゴリ: 国漢文
【本文】平中、にくからずおもふ若き女を、妻のもとに率てきて置きたりけり。
【注】
・平中=平定文(貞文とも書く)。桓武天皇の皇子仲野親王の曾孫。宇多・醍醐天皇に仕え、官は左兵衛佐に至った。和歌に長じ、容貌すぐれ、好色の浮き名を流した。
・にくからず=相手を愛しいと思う。感じがよい。

【訳】平中が、いとしいと思う若い女性を、妻の家に連れて行って住ませていたとさ。


【本文】にくげなることどもをいひて、妻つゐにをいいだしけり。この妻にしたがふにやありけむ、らうたしとおもひながらえとゞめず。
【訳】憎らしいようなことをあれこれ言って、妻はとうとう若い女を追い出したとさ。平中は、この妻に頭があがらなかったのだろうか、若い女を可愛いと思いながらも、妻が追い出すのを引き留められなかった。

【本文】いちはやくいひければ、近くだにえよらで、四尺の屏風によりかかりて立てりていひける。「世中のかくおもひのほかにあること、世界にものしたまふとも、忘れで消息したまへ。己もさなむおもふ」といひけり。この女、つつみにものなど包みて、車とりにやりて待つほどなり。いとあはれと思ひけり。

【訳】妻が早く追い出すように激しく言ったので、若い女に近寄りさえせずに、四尺の屏風によりかかって立ち物越しに次のように言ったとさ。


【本文】さて女いにけり。とばかりありてをこせたりける、

わすらるなわすれやしぬるはるがすみ今朝たちながら契りつること

【注】
・「たち」=「霞が立ち」と「屏風によりかかりて立ち」を言い掛けた。

【訳】そうして、女が出ていってしまったとさ。それからしばらくして、若い女が平中のもとへ寄越した歌、
「決してお忘れになりませんように……。それとも、薄情なあなたは、もう、忘れてしまったでしょうか、春霞が今朝立っていたように、屏風によりかかって立ったまま今朝あなたが私に約束したことを」。







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Last updated  December 21, 2010 10:07:17 AM
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