趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

February 13, 2011
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カテゴリ: 国漢文
【本文】おなじ季縄の少将、病にいといたうわづらひて、すこしをこたりて内にまゐりたりけり。
【注】
・季縄の少将=藤原季縄(すえただ)。
【訳】同じ季縄の少将が、病に非常に苦しんで、そののち、すこし症状がやわらいで、宮中に参内なさっていたとさ。

【本文】近江の守公忠の君、掃部の助にて蔵人なりけるころなりけり。
【注】
・近江の守公忠の君=源公忠(きんただ)。三十六歌仙の一人。延喜十三年(913)に掃部助、同十八年に六位の蔵人、天慶四年(941)には近江守として任国へ下った。官は従四位下、右大弁に至った。

【訳】ちょうど近江の守公忠様が、掃部の助で蔵人だった時分のことだったとさ。

【本文】その掃部の助にあひていひけるやう、「みだり心ちはまだおこたりはてねど、いとむつかしう心もとなく侍ればなむ参りつる。のちはしらねど、かくまで侍こと。まかりいでて明後日ばかり参りこむ。よきに奏したまへ」などいひ置きてまかでぬ。


【本文】三日ばかりありて、少将のもとより文をなんおこせたりければ、

くやしくぞのちにあはむと契りける今日を限りといはまし物を

とのみかきたり。
【訳】それから三日ばかり経って、少将の所から手紙をよこしてきたところ、

無念なことに、先日、また後日会おうと約束したことです。今日が最後の対面だと言っておけばよかったのに。

という歌だけが書いてあった。

【本文】いとあさましくて、涙をこぼして使にとふ。「いかがものし給ふ」と問へば、つかひも、「いと弱くなりたまひにたり」といひて泣くをきくに、さらにえきこえず。
【訳】とても驚きあきれて、涙をこぼしながら使者に尋ねた。「少将はどうなさったのだ?」と質問したところ、「とても体がお弱りになってしまっています」と言って泣くのを聞くが、いっこうに聞こえない。

【本文】「みづからただいま参りて」といひて、里に車とりにやりてまつほどいと心もとなし。近衛の御門にいでたちて、まちつけてのりてはせゆく。
【訳】「自分でいますぐ少将のお屋敷へ参上して、見舞いに行ってまいります」と言って、部下に自宅に牛車を取りに行かせて牛車の到着を待つあいだも、ひじょうにじれったい。近衛府の御門のところまで出て、立って、牛車を待ち受けて乗り込んで駆けつける。

【本文】五条にぞ少将の家あるに行きつきてみれば、いといみじうさはぎののしりて門さしつ。死ぬるなりけり。


【本文】消息いひいるれどなにのかひなし。いみじう悲しくて、なくなくかへりにけり。かくてありけることを、かむのくだり奏しければ、帝もかぎりなくなむあはれがりたまひける。
【注】
・帝=醍醐天皇。
【訳】来意を少将の家の者に言い入れたが、何の甲斐もない。非常に悲しくて、泣く泣く帰ってしまったとさ。こうして、少将の家であった通りの出来事を、上に述べたように帝に申し上げたところ、帝もこのうえなく気の毒がられたとさ。





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Last updated  February 13, 2011 05:21:54 PM
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