趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

February 20, 2011
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カテゴリ: 国漢文
【本文】南院のいま君といふは、右京の大夫(かみ)宗于(むねゆき)のきみのむすめなり。
【注】
・南院=南側の御殿。
・右京の大夫宗于=光孝天皇の孫で、是忠親王の子にあたる。官は従四位下、右京大夫に至った。三十六歌仙の一人。《百人一首》の「山里は冬ぞさびしさまさりける人目も草もかれぬと思へば」の歌で知られる。(生年不祥……939年没)
【訳】南院のいま君というのは、右京の大夫源宗于さまの娘である。

【本文】それ太政大臣内侍の君の御方にさぶらひけり。それを兵衛の督(かみ)の君、あや君と聞えける時、曹司にしばしばおはしけり。
【注】
・太政大臣内侍の君=太政大臣藤原忠平のむすめ貴子。
・兵衛の督の君=宮中警護や行幸の際のお供をする武官の役所である兵衛府の長官。

【訳】その女性が太政大臣の娘で内侍の君というおかたの所にお仕えしていたとさ。それを兵衛の督の君が、まだ、あや君と申しあげていた時分に、南院のいま君に割り当てられた個室に、頻繁にいらっしゃっていたとさ。

【本文】おはし絶えにければ、常夏の枯れたるにつけてかくなむ、

かりそめに君がふしみしとこなつのねもかれにしをいかでさきけむ

となむありける。
【注】
・常夏=ナデシコの別名。山野に自生する草花で、高さ約五十センチ。葉は線形でやや白っぽく、対生。夏から秋にかけて花びらの先が細く裂けた紅色の花をつける。秋の七草の一。
・ふしみしとこなつ=「寝転がって見た庭のナデシコ」と「臥して契りを結んだ寝床」を言い掛ける。「ふし(臥し)」に対して「み(見る)」「とこ(床)」「ね(寝)」は縁語。
・ねもかれ=「根も枯れ」と「寝も離れ」「音も嗄れ」を言い掛ける。
【訳】そののち、南院のいま君の部屋へのご来訪が絶えてしまったので、常夏(ナデシコ)で枯れている花に手紙を結びつけて、こんなふうに歌を作った、

ほんのちょっと貴方が私と臥してみた寝床ではありませんが、共寝することもほとんど無くなってしまい、私の泣き声もすっかりかれてしまい、常夏の根も枯れてしまったのに、どうして咲いたのでしょうか。

と書いてあったとさ。






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Last updated  February 20, 2011 05:23:30 PM
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