趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

April 7, 2011
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カテゴリ: 国漢文
【本文】泉の大将、故左のおほいどのにまうでたまへりけり。
【注】
・泉の大将=藤原定国。高藤の息子。大納言・右大将をつとめた。(八六七年~九〇六年)
・故左のおほいどの=藤原時平。
【訳】泉の大将が故左大臣のお屋敷に参上なさったとさ。


【本文】ほかにて酒などまゐり、酔ひて、夜いたく更けてゆくりもなく物したまへり。
【注】
・まゐる=「飲む」の尊敬語。
・ゆくりなし=突然。

【訳】余所で酒などお飲みになり、酔って、夜ひじょうに遅くに突然いらっしゃった。

【本文】おとどおどろき給て、「いづくに物したまへる便りにかあらむ」などきこえ給て、御格子あげさはぐに、壬生忠岑御供にあり。
【訳】左大臣さまがびっくりなさって、「どこにいらっしゃったついでであろうか?」などと申し上げなさって、家の者たちが出迎えの準備に格子をつりあげて忙しく立ち働いていると、壬生忠岑がお供のなかにいた。

【本文】御階のもとに、まつともしながらひざまづきて、御消息申す。

「かささぎの渡せるはしの霜の上を夜半にふみわけことさらにこそ

となむ宣ふ」と申す。
【注】
・かささぎの渡せるはしの=大伴家持の「かささぎの渡せる橋に置く霜のしろきを見れば夜ぞ更けにける」(天の河にカササギが架け渡している橋に降りている霜が白いのを見るにつけても、夜が更けてしまったなあ)をふまえる。
【訳】階段の下に、松明をともしたままひざまずいて、訪問をお告げ申し上げた。
「カササギが渡しているはしの霜のうえを、夜中に踏み分けてわざわざ尋ねて参りましたよ、とおっしゃっておられます」と申し上げた。

【本文】あるじの大臣いとあはれにおかしとおぼして、その夜、夜一夜大御酒まゐり、あそび給て、大将も物かづき、忠岑も禄たまはりなどしけり。

・夜一夜=夜通し。
・大御酒=臣下を相手に飲む酒。
・あそぶ=歌舞音曲を楽しむ。
【訳】主人である大臣も、非常に風流で味わい深いとお思いになって、その夜、夜通し臣下を相手にお酒を召し上がりなさって、大将も衣類を褒美にいただき、忠岑も褒美の品をいただいたりなどしたとさ。

【本文】この忠岑がむすめありとききて、ある人なむ「得む」といひけるを、「いとよきことなり」といひけり。


【本文】男のもとより「かのたのめたまひしこと、このごろのほどにとなむおもふ」といへりける返り事に、

「わがやどの ひとむらすすき うら若み むすび時には まだしかりけり」

となむよみたりける。まことに又いと小きむすめになむありける。
【注】
・たのめたまひしこと=娘を妻しようという申し入れに対して「いとよきことなり」(たいへん結構なことだ)と約束したこと。
・ひとむらすすき=一人むすめのたとえ。
・うら若み=「うらわかし」(新鮮でみずみずしい)と「うら」(心)が「わかし」(幼い)の掛詞であろう。
・まことに又=この「又」は、あるいは元「まだ」とあったものか。

【訳】男のところから、「例の当てにさせなさったこと、近いうちにと思います」と言った、その返事に、「我が家にある一群のススキは、若くてみずみずしく、生長していないので、結ぶには十分な長さがないように、また、心が幼いので、夫婦の契りを結ぶにはまだ早いと思います」と歌を作ったとさ。本当にまだ幼いむすめだったとさ。







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Last updated  April 7, 2011 07:48:22 PM
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