趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

May 13, 2011
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カテゴリ: 国漢文
【本文】故兵部卿の宮、昇の大納言(源融男)のむすめにすみ給けるを、例のおまし所にはあらで、廂におまし敷きて、かへりたまうていと久しうおはしまさざりけり。
【注】
・故兵部卿の宮=醍醐天皇の皇子、元良親王。
・昇の大納言=源融の息子。
・すみ=動詞「すむ」の連用形。女の所にかよって夫婦生活をする。
・おまし所=貴人の席。
・おまし=敷物やしとねの尊敬語。
【訳】故兵部卿の宮(元良親王)が、昇の大納言の娘の所に夫としてかよってお暮らしになっていたが、いつもお席ではなくて、ひさしの下にお敷物を敷いて、帰宅なさってから長い間お見えにならなかったとさ。

【本文】かくてのたまへりける、「かの廂にしかれたりし物はさながらありや。とりたてやしたまひてし」とのたまへりければ、御かへりごとに、



とありければ、
【注】
・のたまふ=「言ふ」の尊敬語。
・さながら=そのまま。
・草枕=旅寝するのに草を枕とする。ここでは、粗末な枕。
【訳】こうして、〔大納言の娘の元へ手紙で送って〕おっしゃったことには「例のひさしに敷かれていた物は、そのままあるか?取り片付けておしまいになったか?」とおっしゃったので、お返事の歌として

敷き換えることなく、あったとおりに残っておりますよ、粗末な枕の塵だけが積もることです、塵を払うあなたがいらっしゃらないから。

と〔大納言の娘が〕書いてよこしたので、


【本文】御かへりに、

 草枕 ちりはらひには 唐衣 袂ゆたかに 裁つをまてかし

とあれば、

・唐衣=袷(あわせ)仕立てで錦・綾などで作る平安以後の女官の正装。上流の女性が着る。上着の上に着用し、「裳」とともに用いる。「袂」「裁つ」は、縁語。
【訳】また、〔元良親王が〕御返歌として

 草枕の塵を払いには、唐衣の袂を余裕をもたせて裁つように、気持にゆとりを持って私が訪問するのを待っていてくださいよ。

と書いておよこしになったところ、

【本文】又、



となむありければ、
【注】
・しきたえ=敷物にする布、布団の類。
【訳】また、〔大納言の娘が〕

唐衣を裁つのを待つ間の短い時間、私の敷物の塵が積もるだろうががまんもしましょう(けれども、あなたが来られなくなって長い時間がたっているからこそ、こんなに塵が積もっているのですよ、早くいらしてください)

と書いてあったので、

【本文】おはしまして又「宇治の狩しになんいく」と宣ひける御かへりに、女、

 みかりする 栗駒山の 鹿よりも ひとりぬる身ぞ わびしかりける
【注】
・栗駒山=宇治にある栗隈山。
【訳】兵部の卿の宮が、いらっしゃって、また「今度宇治のほうへ狩りをしに行く」とおっしゃったお返事に、女が作った歌、

御狩りをする栗駒山の鹿以上に、独りで寝る私のほうがさびしくてつらいことだなあ。 





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Last updated  May 13, 2011 11:03:29 AM
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