がらくた小説館

デジャブ


 「この景色、どこかで見た様な?」
 思わず口に出して言ってしまった。

 横にいた妻は、また馬鹿なことを言って、というような顔をして、とりあおうともしない。
 これで何度目だろう。確かにこの景色に見覚えがあるのだ。
それは段々と確信へと変わっていく。単なるデジャブなのだろうか?

 しかしこのどこか見覚えのある景色は、見るごとに鮮明さを露にし、そして記憶の深遠を揺らし続ける。

 確かにその場所に死体があった。
 だが今はそこにはない。

 誰かが持ち運んだのだ。そしてその先までも見えてくる。
やがて男がやってくる。一人ではない。女性とともにここへ来るはずなのだ。

 記憶はなおも現実感を増す。

 犯人は女性。見覚えのある女性。それは…。

 俺は恐る恐る隣にいる妻に聞いた。

「お前、もしかして…」
 妻は静かに頭を縦に振る。

「もしかして二回目か?」と俺。

「いえ、これで四回目よ」と妻。

 俺は即座にビデオの停止ボタンを押し、急いで二本目の借りてきたビデオを再生した。


「この景色、どこかで見た様な?」
思わず口に出して言ってしまった。

 横にいた妻は、また馬鹿なことを言ってというような顔をして、とりあおうともしない。









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