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古塚の松美しき立夏かな夏野来て封人の家のくらがりに万緑の火の山へ牛放ちたり黒塚の岩を人這ふ青嵐牛追の角笛霧の那須野より袈裟懸けに神杉つなぐ烏瓜米づつみ枝に結びて山始牽かれきし牛つながるる若草野蛇姫の住みし二の丸梅ひらく間伐の杉ごろごろと蝮蛇草
2006.11.22
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俳人で伯父の鈴木朗月(ろうげつ、本名・甲子郎)が、句集「初謡(はつうたひ)」を上梓しましたので、本人の許諾を得て一部抜粋でご紹介します。朗月は、1924年(大正13年)生まれ、栃木県庁の土木畑を歴任するかたわら、昭和50年ごろから俳句に親しみ、現在俳人協会栃木県支部幹事。「万象」同人。また、それに先立ち昭和30年に入門した能謡曲(うたい)では、昭和48年、宝生流教授免許。各地の能舞台、薪能などで活躍した。俳人協会・第41回全国俳句大会(平成14年9月)選者特選句受賞。平成17年6月、栃木県俳句作家協会・七木賞受賞。 今年82歳になるが、いたって元気かつ朗らかで頭脳明晰。甥である私には、昔からとても気さくで心優しい伯父であるが、こと俳諧においてはその句境は厳しく、完全主義の権化とすら見え、畏敬しています。なお、短詩型文学である俳句・短歌をはじめ韻文(詩)は、分からなさ・難解・晦渋性もその味わい・余韻のうちと心得ますから、下手な解説は付けません。(順不同)梅園の羽衣の松古りにけり春の水山際を出てほとばしる巫女も出て陽明門の煤払ふ氏神の裃借りて初謡小開きの扇にのせし能の笛薪能投げて広がる蜘蛛の糸邯鄲の能見て睡る薄着かな白鳥座真上にはずむ能囃子年若の師に叱られて寒稽古声張りて小鼓を打つ業平忌酔ふほどに沙翁を語る月の客姫女苑笑ひ閻魔の屋根に咲く吊橋がきらひで行けず葦簾茶屋秋草を丹波の壷にあふれしむチューリップ見てわらんべが踊り出すまた一つ古本屋閉づ西鶴忌風呂吹に始まる婚の口固め殻付きの生牡蠣食べて婚約すこの時婚約したのは、私の従兄弟である。特に親しみを感じる句である。
2006.11.22
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Days In The Lifeきょう僕は新聞で読んだよ京都長岡京の運送業の父親と内縁の妻が3歳の子供を餓死させたがりがりに痩せこけた子供を見て男は女に「このままじゃ死んじゃうからやめてくれ」といったが継母の女は「そうやね」といったきりだった死ぬとは思っていなかったんだそうだ僕は君のスイッチをひねってあげたいきょう僕は新聞で読んだよ福岡筑前の13歳の少年が首を吊って自殺した素直で頭のいい子だったが教師からも同級生からもいじめ抜かれてたった一人の友達に気持ちを打ち明けて逝ってしまった自分の家にも居場所はなかったらしい僕は君のスイッチをひねってあげたい朝8時に飛び起きてテレビを点ける コニちゃんと子供たちが垂乳根の母が釣りたる青蚊帳をすがしといねつたるみたれども――長塚節(母が吊った青いかやを爽やかだなあといって寝た、たるんでたけどね)なんて歌っているビーンスタークの「つよいこ」をぬるま湯に解かして260cc(キュービカルセンチメートル)のあたたかいミルクを作るまだねむねむの子供たちを揺り動かして起こすのは僕の役目だやっとの思いで哺乳瓶を銜えさせて お目覚めのミルクをおいしそうに飲む娘たちの顔を見ながら僕は夢見心地きょう僕は新聞で読んだよ大阪岸和田で15歳の少年が殴る蹴るの暴行を受けた上餓死寸前で発見された父親はこわ面のヤクザみたいなDQN(ドキュン)だったが本当は現実に直面できない弱虫の駄目男だったんだろう真っ暗な部屋の鮮やかなブルーシートの上に放置された少年の体は生きながら半ば腐爛し始めていたという僕は君のスイッチをひねってあげたいジョン・レノン、ポール・マッカートニー「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」(ザ・ビートルズ)より。「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブバンド(ペパー軍曹の孤独心倶楽部楽団)」所収。© Nohara Sakamoto 2006 All rights reserved.
2006.10.29
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い ち ご ミ ル ク を く れ た き み 四十年近く前うちは僕をタラオとする磯野家みたいだったからコカコーラは三世代の家族そろって何かの儀式よろしくこわごわ飲んだお爺ちゃんとお婆ちゃんは薬臭いと苦虫を噛み潰したような顔でこのマッカーサーが持ち込んできた異国の飲み物を唾棄するように貶して二度と飲もうとしなかった僕も正直言って三ツ矢サイダーの方がおいしいと思ったかっぱえびせんが新発売になったときを覚えているこれはすぐ虜になった初代のイメージキャラクターは噺家の柳家小せんだった小せんえびせん かっぱえびせん 一度食べたらやめられないちなみにカルビー製菓の名は かっぱえびせんにカルシウムとビタミンBが豊富だということから名づけられた 真偽のほどは知らないそれらはともかく東鳩からいちごミルクが新発売になったときさっそく教室に持ち込んで 僕にも一個くれたのはきみじゃなかったっけ?ずいぶん長い付き合いになるねえもう三十年以上も たまに会ったり 思い出したり 忘れ去ったりしている一度 とんでもなく親(ちか)しくなる機会さえあった僕はそのとき心の準備が出来てなかった申し訳なく思っているで そのいちごミルクは 空前絶後にうまかったあれ以上うまいお菓子に あれ以来出会ったことがないもっとも 男というものは成長するにつれて自然と甘いものが苦手になるものだ 不可思議な現象だねたぶん生物学的には メスと子供に必要な糖質を与えるためだよ科学は万能ではないが大抵のことは説明できる なめてはいけないオスは種の遺伝子を保存するために自分という個体を犠牲にするようにプログラミングされている ああ愛しき大河ドラマそれにつけてもおやつはカール君の研究社英和中辞典はすべてのページにアイロンが掛けてあって手に持つとふわふわゆらゆらさらさらぱらぱらと捲れて机に置いてもふかふかに脹れていたねとはいえ 研究社の各種英和辞典は 文学的な単語が足りないはっきりいうとエッチな単語が しっかりと排除されているのが不満だ教育的配慮か何か知らないが 情報操作されているような被害妄想さえ感じる英和辞典の中からエッチな単語を探し出すのは 思春期の男の子の(女の子も?)大きな楽しみの一つだ実を言うと僕は密かな英和辞典評論家なのだやっぱりそういう点では S社のP英和中辞典が一番だ なにしろこれはアメリカのR大英和辞典の縮刷版という性格も併せ持っているからね今 猫も杓子も大修館のジーニアスかい さもなくば学研のアンカーふん つまらん(ここ 大滝秀治さんの声色で)あのド秀才の学年のマドンナを何のためらいもなく猫みたいなあだ名で聞こえよがしに呼んでいたのも多くの場合きみだったのではなかったかきみの茶目っ気と人懐っこさと人徳は二十世紀の七不思議だ学者になり人妻になったきみを こないだ街で見かけた冴えない顔して歩いていたこっちも二日酔いで不精髭を剃り忘れていたので 声を掛けなくてよかった松任谷由実の卒業写真の歌詞だと声を掛けられたんだっけ?この点はネットで調べればすぐ分かることだけどどっちみち なかなか歌の文句のようにはいかないよね
2006.10.25
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嵐 の 夜 と 龍 の 夢テレビを見てないから現代人じゃないと思うラジオは聴いてるけれど野球もサッカーも興味がないから変人だと思う相撲は好きだけどその代わりに夢を見ているこんなにも穏やかな秋の夜長にふさわしくないムソルグスキーのような嵐の一夜にメガロポリスと龍の夢を見た繰り返し繰り返し僕の夢に現れてくる北の大地の漆黒の中に高光る平安の京が僕といふ鳥の俯瞰する視界の中に碁盤目みたいに整然と煌いているすると突然鳴り渡る伊福部昭のアイヌの旋律の重厚な響きそうだ 「モスラ対ゴジラ」の音楽だわが密かに心酔していた最も信頼できる具眼の映画評論家の金坂健二が日本映画のトップ1に挙げていた隠れた名作だフランス文学者の中村真一郎 福永武彦SF作家としてデビュー直前の星新一らがああでもないこうでもないと寄ってたかって作り上げたメルヒェンモスラの卵の鎮座するインファント島の白日夢から古関裕而のあの歌謡ショーみたいなテーマ曲を駆逐して成ったその音楽は四十年後の僕の魂に今も鳴り続けている文楽は見に行くものでなく聴きに行くものだというポール・マッカートニーは映画は見るものでなく聴くものだと言ったそうだ 僕にとっても映画館の暗闇は伊福部昭のコンサート会場だ戦争と平和 北海道と東京 日本とアイヌとを一身に体現した骨太な男の七人の侍では百姓を演じていた大部屋役者たちと日劇ダンシングチームによる東宝原住民(かつては土人と呼ばれた)と酋長円谷英二による東宝自衛隊が露払いを務めて十分なアトモスフィアが醸し出されてのち核戦争の悪夢を身にまとったゴジラがかつてムー大陸が沈んだという南太平洋の共同幻想の中から徐ろに立ち現れるいけない鳥爺のわしは龍の話をしていたのだつたその龍は唐突に炎のように僕の眼前に姿を現わし僕の視界と身体に絡みついただがこれはカラミティではなくリアリティなのだった とは単なる駄洒落だ龍の巨大な躯体は燦然と輝きながら中空にのたうち回りその尾のひと振りが都市に鎧袖一触するときビルディングは咆哮し電線はスパークして蒼ざめた仄めきを放ち別世界からの警告がくっきりと闇夜に示されるそして都市の夜景の上に飛翔し躍動し天空へと昇り去った稀に見る瑞夢というべきだろうフロイト、ユング、アドラー、シェルドンもびっくりの僕の意識の深いところから涌き出てきた根源的な力の顕われ惜しむらくは またはあろうことか それとも あにはからんやさもありなん 何でもいいが 龍の顔はキングギドラそのままだったギドラって何だ 銀河のドラゴンか ギラギラしたドラゴンか何にせよドラゴンに変わりはないから僕は身を任せて揺れているそしてあの神話のヤマタノオロチが二重写しになつて銀河の光が漣となって零れ落ちてくるようにとめどなく僕の体の中へ流れ込み流れ込み流れ込んでくるのだった おしまい
2006.10.24
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