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「本の飢餓」という言葉を最近耳にすることが多くなってきた。
この言葉についての説明は、世界盲人連合が「現在出版されている印刷物の 99 %が、視覚障害者にとってはアクセスができないものであり、この状況を「本の飢餓」と呼ぶ」と説明している。印刷物の 99% を、視覚障害者が読めずにいる現実に心底驚く。
「本の飢餓」に対する認識も最近少しずつ広がってきて、それを解消しようとする取り組みが欧米諸国はもとより、日本、アジア諸国、アラブ諸国など世界各地で展開されるようになってきた。
読むことへの障害を感じない人々にとっては、実感が湧かないかもしれないが、読むことへのバリアは、実際は視覚障害者だけでなく、ディスレクシアという障害をもつ方や、脳の機能不全による ADHD 、集中困難、認知障害、自閉症アスペルガー、トウレット症候群などの障がいをもつ方、あるいは寝たきりになって書物を持てなくなった方にも起きる。身体的障害が無くても、移住者あるいは住んでいるところの公用語が母国語ではない人々、限られた教育しか受けていない人々、あるいは貧困ゆえに、さらに戦闘地では、本にあるいは情報にさえアクセスできない人々もでる。つまり思っている以上に「本の飢餓」の中にいる方々は多いと言うことだ。
今ちょうど、自分自身が読むことのバリアフリー化や「本の飢餓」問題に関わっていることもあって、「本の飢餓」に関心が深くなり、図書館の役目を考えている。そんなことから、ドキュメンタリー映画 〈ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス〉 を Amazon プライムで観た。
一言で言うと「感動」だった。アメリカ社会の「知」に対する姿勢、人権への高い意識がわかって非常に参考になったし、同時に知りたいことも出た。
今日は、この映画 〈ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス〉 を観て想ったことを記しておく。
【ニューヨーク公共図書館とは】
Wikipedia にかなり詳しく載っているので、そちらを参照していただくのが良いが、概略だけ記す。
ニューヨーク公共図書館 は、ニューヨーク市内 マンハッタン区 、 ブロンクス区 、および スタテンアイランド区 の各地区に、大小合わせて92の地域分館と、研究目的のために公開されている3つのリサーチ・ライブラリー(研究書図書館) から構成されている。
公共図書館としては世界屈指の規模をもち、 5300 万点の蔵書・収蔵物を所蔵。
公共図書館ではあるが、設置主体はニューヨーク市ではなく、あくまで民間の非営利組織 (NPO) で、年間の予算額約 340 億円の約 5 分の 1 を民間からの寄付でまかなっている。
利用は原則として無料。ニューヨーク市に在住あるいは勤務している者であれば、誰でも会員になることができる。 年間来館者数は約 1700 万人にものぼる [5] 。
この図書館の特徴として、 インターネット を積極的に活用した情報発信や、数多くの教育プログラムを展開していて、ニューヨークにおける総合的な教育・研究機関として機能している。
と Wikipedia にあった。
映画は、上記で紹介されている活動だけでなく、ニューヨーク市民全体を視野に置いたもっと幅広い活動をこの図書館が展開していることを描いていた。公共図書館がこうした多様な活動を展開していることに、私は驚くと同時に、羨望を覚えた。
この映画の中で私が感動したこの図書館の特徴を書いておきたい。
【図書館の役割に対する認識】
図書館の役割、その位置づけについての確固とした運営者の信念が語られる。こう言うのだ「図書館とは本の置き場ではありません。単なる書庫と思われがちですが、 図書館とは人なんです。知識を得たいと思う人々が主役の場所なのです。 そのために本があり、そのためにいろいろな方法が用意されているところです。生涯をかけて学ぶ場所、どんな世代でも利用できるところ。図書館は文化的にも経済的にも重要です。地域のコミュニティのためにも必要です。研究図書、アーカイブや、貸し出し機能も必要。多様性に応えることが求められています。図書館は将来必要ないという意見がありますが、それは図書館の進歩にも重要性にも気づいていない言説です。」
この言葉からは、図書館の存在意義と役割を明確に認識し、その使命を果たそうとする使命感がはっきりと伝わってくる。
【市民をインターネットへと繋ぐ活動】
ニューヨーク公共図書館 のポリシーでもありその特徴にもなっている市民をインターネットへと繋ぐ活動のシーンは、目を見張るものがあった。
意外なことなのだが、ニューヨークでもインターネットに繋がっていない人々が 300 万人もいるのだという。図書館運営スタッフは、こうした市民が「オンラインで図書館の資料が見られるようにする。これが21世紀の究極の目的」だと言い、「テクノロジーがこれを可能にする」と語る。そして、資料のデジタル化、それに関連する著作権問題を解決する新たなシステムが必要だと提案した。
市民をインターネットに繋ぎ、市民の間に情報の格差を作らないために、無料のインターネット接続を図書館で提供し、さらに、希望者にはインターネット接続用の機器の貸し出しもしている。この取り組みはすごいと思った。
「教育と情報のアクセスこそが不平等を根本的に解消する。その力を過小評価してはいけません」とあるスタッフは語った。
私はこの意見に全面的に賛成する。
【コミュニティセンターの役割や多彩な教育や文化活動も】
この図書館では、貧困層への住宅提供への手伝い、国境警備隊など仕事の紹介、医療センターとの連携まで提供している。
さらに、多様な文化活動も展開している。例えば、講演会、コンサート、詩人による詩の朗読、読書会、高齢者のための運動を兼ねたダンスクラス、子どものための学習指導、放課後教室、ロボット制作クラス、聴覚障がい者のための手話者による演劇を楽しむワークショップもある。老若男女、障がいの有無の隔てなく市民が参加できる多彩な講座を提供しているのである。
【市民に深く根付いている図書館】
ゆったりとした空間をもつ閲覧室。利用者の真剣な眼差し。この映画の中で「図書館で全てを学んだ」と語った脚本家も、こうした利用者の一人だったのだろう。
この脚本家だけではない。この図書館から多くの芸術家たち、クリエーター達が生まれたのだと言う。その人たちが学んだのがこの図書館にある 《ピクチャーコレクション》 。私はこのコレクションに感動した。画像、写真、挿絵、絵、版画、エッチング、広告などの印刷物などが、テーマやトピックごとに整理されているコレクションである。 1915 年から 蒐 集 が始まり、 100 年かけて作られたコレクションだという。
貴重な画像や写真が山のようにある。どの資料も閲覧無料。
アンディ・ウ オ ーホールだけでなく多くの著名な芸術家たち、クリエーター達がこのコレクションに学び、ここからインスピレーションを得たという説明も、納得できた。
このコレクションでは、画像を見られるだけでなく、この 100 年間のそれぞれの時代の流行のフォント、使われていた色、技術の変化、それらに反映された人々の考え方の変化などまでもがわかる。
【この図書館を支えている力】
この図書館のこうした多彩な活動を支えているのが、多くのボランティアたちである。
彼らの活動範囲は多様で、録音本館では点字本の読み方や、点字タイプライターでの文書の作り方を、視力障がい者が指導している。
もう一つ、録音本の録音シーンでは、それに取り組む人々の真剣さにも感動した。
ボランティアたちは、図書館を支える支援者のためのパーティーや、活動報告会を開く手伝いもする。
図書館運営スタッフの取り組みもすばらしい。図書館へ関心をもってくれるように政治家へのメッセージを発信。予算獲得あるいは公的資金を得るためにどうするか、また、予算はどう配分するか、民間からの寄付も含めての資金をどう呼び込むか?など、図書館運営を巡っての真剣な討論をする。
最近のデジタル図書の動向とデジタル図書についても、熱のこもった討論シーンがある。この図書館でのデジタル図書の貸し出し率は、 300% 。急激な伸びをみせ、貸出の待ち時間は 4 〜5ヶ月にもなっているという。そうした中で、デジタル図書を購入するのか、人気のある作品の購入を優先するのか、あるいは貴重本の購入を優先させるべきなのかの葛藤を映したシーンからは、この図書館を支えている人々の、図書館のもつ使命への認識が伝わってきた。
【知りたいこと】
この映画は 2017 年の製作 である。つまりコロナ・パンデミック前に作った作品だ。
2020 年から始まったコロナ禍の中で、この図書館は従来の多様な活動ができたのだろうか?
この図書館の重要な機能の一つ「情報のアウトプット / 情報の積極的発信」ができたのか?
ニューヨーク公共図書館 はどのようにして、その多彩な活動とその役割を果たし、危機を乗り切ったのだろうか?
映画を見終わって、そうしたことを知りたいと思った。模索を続ける他の多くの図書館の参考になると思ったからである。
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