虫のいい話 南風一
せっかくきみに先導してもらって発掘現地に向かったのに
俺はそそくさと退去してしまった
しかもきみにも専門調査員にも黙ったまま
特に話すことがなくても
適当にその場を取り繕って
しばらく居ることはできた
それが先導して連れて行ってくれたきみに対する礼儀でも
あったろう
それでも俺はひねくれた子どもみたいに
黙って事務所を退出して
車に乗るや後ろを見ることもなく
発掘現場から走り去った
何が気に入らなかったのだろう?
きみは目的があったから発掘現場の専門調査員を訪ねた
俺には最初から目的がなかったわけだから
黙ってきみのそばに控えているのが筋だったろう
そういう風には行かず
俺は何のためにきみの後に付いてやってきたのだろう?
と自問した
その結果が俺は長居すべきじゃないという結論だった
きみも俺もこの週末がきて
再び発掘調査に参加すれば一週間前の出来事など
ケロリと忘れてしまっていよう
きみと俺は単なるボランティア調査員仲間
それ以上でも以下でもない
趣味が違うことは当たり前だし
何に喜びを感じるかなんてのも全く異なっていよう
そんな成人同士がボランティア活動を離れて
こちらの興味に合わせてくれと望むのが虫のいい話だね
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