壁 南風一
朝会ったときだけ
「先日はどうも」と声をかければ
「いえ」というこたえが返ってきた
心踊るときがあっても
たったそれだけのこと
恋人でも夫婦でもないから
ボランティア活動を中途で引き上げるときでも
挨拶もない
何の関係でもないことを象徴するかのように
黙って道具を片付けて
横をすり抜けて行く
悲しいものさね
3年経っても仲間という関係に過ぎないから
帰り際はそんなもの
俺が声をかけると
「私もう帰るの」
たったそれだけ言い捨てて
道具を仕舞ったら向こうの方で仲間の一人、二人と専門調査員と暫く話をしていたかと
思ったら
そのまま向こうへ帰ってしまった
俺は説明会の参加者の一人につかまって
遺跡発掘の状況を話したりしていたから
きみの後ろ姿を目で追うこともできなかった
来週きみには素敵な知り合いを紹介するつもりだけど
その件についてはお互いに結局一言も口に出さず仕舞いだった
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