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ネオリアヤの言葉
東京
昼間の湿度を残す夜風が表参道の信号を渡る。
空気が、自分の躰にまとわりつくのをハッキリと感じたのは、
これが生まれて初めてだった。
立ち止まると足から汗が滲み、
空気中の水分の匂いが、衣服を通して躰の奥まで沁みこんでいく。
午後八時ちょうど。
メイン通りのオープンカフェで、
ミサキは人を待っていた。
渋谷の路地にあるベトナム料理の屋台で、
早めの食事を済ませてある。
アスファルトの地面から一㍍ほど階段を上った高さにある席に坐り、
足を組んだ。
天井にへばりついて、クルクル回っている空調用のファンも、
今夜ばかりは、気休めにもならない。
左手首にしていた時計の革ベルトが、
じっとりと皮膚に同化していきそうで、妙に怖くなる。
急いでそれを外し、テーブルの上に置いた。
丸く、音もなく溶けていくアイスティの中の氷を見つめながら、
ようやっと気持ちが落ち着いてゆく。
小さく呼吸をして、歩道橋わきの街路樹に眼をやった。
色とりどりのネオン。
何年暮らしてみても、このネオンにだけは慣れることができない。
うんざりするほどに光を放つ文字や映像と、
耳の奥までは届かない喧騒。
レコーディングを終えてスタジオを出たあと、
足早に、街燈だけの薄暗い脇道へと入ったことを思い返す。
「お疲れさまでしたぁ」
元気のいい声が角を曲がったこちら側まで響いてきて、
走り際に残してきた中途半端な笑顔に、
ちょっと後悔する。
「ごめんね。急いでるんだ」
そのひと言だけで、スタッフの呼び声から、
逃げるようにして帰ってきたのだ。
七時に仕事が終了したミサキは、
一刻も早くスタジオから脱出したかった。
おとといの午前十一時頃に着替えを買いに外出したきり、
この四日間というもの、スタジオにこもりっきり。
コンクリートに囲まれた四角いスタジオでは、
真夏の太陽や、深緑の木立を見ることも、夕立の音を訊くこともない。
息苦しくて仕方がなかった。
だから、猛暑だろうが残暑だろうが、
とにかく屋外へ出たかったのだ。
そうすれば、ちゃんと呼吸できる気がした。
けれど、ここに坐っているかぎり、
自分の息と空気の温度差は、皆無に近い。
吐き出した二酸化炭素が、湿度に負けて、
顔に覆い被さってくるような外気の流れ。
本当に呼吸できているのかさえ、不安になる。
口に含んだ氷が少し苦い。
「スカートだと少しは涼しいもん?」
木の椅子を引く音がして、隣に正樹が腰掛けた。
ミサキは、足にすっかりくっついて馴染んでしまった、
生成り色の麻のタイトスカートを撫でる。
「関係ないな。この無風、高湿度じゃ」
「そっか」
残念そうな顔をしてメニューをめくると、
文字の存在だけを確認してアイスコーヒーを注文した。
「まさか着る気?」
「今日、朝からずっと考えてたんだ。果たしてスカートは涼しいのか。男ばっかりの職場だから誰もわかんなくてさ」
「アルバイトの女の子いるじゃない」
「そういう質問できるような子じゃないんだ、これが。素直でいい子なんだけどねえ」
オヤジくさい語尾のばしをしながら、ミサキの眼に視線を重ねる。
とても優しく、眼尻に笑い皺が刻まれた人懐こい顔。
今年三十一歳だけれど、
二十四歳のミサキのほうが年上にみえる。
「今日は時間通りに終わったんだね」
「うん。事件でも起きない限り、九時五時みたいなところだからね、うちの部は。ある意味」
両腕を頭の後ろで組み、椅子に大きくもたれかかる。
椅子の脇に置かれた黒のナイロンバッグは、
仕事道具のカメラやフィルム、薄手の上着でいびつに膨らんでいた。
正樹は、一年前に新聞社の写真部に入社したばかり。
それまでは、母校の大学で教授の助手をしながら、
「撮影だ」「取材だ」と称しては、
アジア諸国を中心とした旅行に明け暮れていた。
半年日本にいればいい方だった。
ミサキの部屋のコルクボードには、
旅先から送られてきた各国の絵葉書が何十枚と、
無造作に画鋲で留められている。
それらは自分と正樹をつなぐ証しのようなものだった。
友達や恋人を超えた、特別な関係にある気がして嬉しかった。
何が起きても、いつでもこの距離は変わらない、
という居心地のいい安心感を与えてくれる。
「ミサキは? いつ終わったの、仕事」
「七時にあがって、バンフ―リーで食事しちゃった」
「早いな食うの。どうせ一人で食ってたんだろ」
「四日間スタジオにいたら、食事も店屋物ばっかりで死にそうでした。とりあえず早く外に出たかったんだよね。こんな気温でも…」
「でも、珍しいな。スタジオに篭もる時は、いつもズボンだろ」
「着替えたの」
通りを行き過ぎる人々の足取りを眺めながら、
流れない空気を手で扇いでみる。
「で、メール見たけど」
正樹は、深く坐り直した。
穏やかな口調。
言葉の続きをミサキに委ねるようにして、
運ばれてきたアイスコーヒーに口をつける。
グラスの表面に、薄く、細かな水滴の粒が浮かんでいる。
「そう…」
「なんて云って欲しい?」
「…普通にみんなが云うようなコメントでいいんじゃないの」
「結婚おめでとうって?」
テーブルに肘をついて、身を乗り出す正樹。
興味津々に覗き込むような表情だ。
「コンノミサキになりまーす」
右手をまっすぐに挙げて、おどけてみせる。
勢いよく正した姿勢が、カラ元気のように躰に残った。
別に嫌々結婚するわけじゃないし
、幸せな笑顔を披露してもいいのかもしれない。
けれど、そんなことをしても、
正樹にはわかってしまいそうだった。
お見合いでもない代わりに、恋愛の末の結婚でもないことを。
「知ってるヤツ?」
「知らないんじゃないかな。私は紹介したことないけど…正樹と同い年よ、三十一歳」
「三十一?」
特に驚くこともない年齢なのに、正樹は大袈裟に復唱してみせる。
「えー、いつからつき合ってたのぉ? という間抜けな質問はしないけどさ。どういう風の吹き回しかは教えてもらわないとな」
ミサキにつき合っている相手がいなかったことなど、
周知の事実。
それを、女子高生のような声色を使って、ふざけながら核心をついてくる。
「タイミング、かな」
「おまえさ、それは辞書に書いてある台詞だろ。そんな常套句を引用できる女だったら、もっと早くにお嫁にいってるはずでしょ、ミサキちゃん」
「云いますねぇ」
辛口の言葉をはきながら、ニタニタ笑っている。
隣のテーブルの女性二人がこちらを盗み見た。
容姿と実年齢に差がなければ恐らく三十代半ばの一人が、
素早く正樹の横顔に視線を移した。
わずかに羨望の色の滲む眼差しを横眼に、
ミサキは声のボリュームを少し上げる。
一瞬、嫌なカンジ、と自分で反省したけれど、そのまま続ける。
「話が合う。嫌いなモノが一緒。必要以上にドキドキしないで思ったことを云える。雑誌で海外や国内情報を見てると、一緒に行きたいなと思う。互いにほどよく忙しく、距離感があっていい。以上、トップファイブの発表でした」
指を折りながら、淡々と「項目」を列挙する。
その間、正樹は腕を組みながら、
ずっと可笑しそうな雰囲気を口元に浮かべていた。
「ふざけてそうだけど本音なんだろうなぁ、ミサキの場合」
云ったあとで、声に出して笑う。自分も笑った。
「この先も理解していける…一緒にいられるっていう『好き』かな。彼の考え方を尊重しつつ歩み寄れそう、というか…」
「でも、普通はそんな理由じゃ傷つくだろ」
「私が結婚しようと思う人ですから」
「そりゃそうかもな」
グラスの底に溜まった薄っぺらい氷を、
ストローでつつきながら、ミサキは会話を止めた。
互いの微笑が、やさしく消える。
こんな話をしたくて正樹にメールしたんじゃない。
彼の話をしに来たんじゃない。
これまで通り、正樹と自分の近況や、
映画や音楽、東京のいろんなことを話したいのに…。
正樹は、ミサキが本音を喋りたい時の合図を読み取ってくれる。
坐ったままのズボンのポケットに、
いつものように両手を入れ、通りを黙って見つめた。
車道を走る車のヘッドライトが少しずつ濃くなり、
通行人の横顔がライトアップされていく。
まるで、ランウェイを歩くモデルのような、
カフェの人々の視線を意識した表情がそこにはある。
そんなちょっとした緊張感の生まれる東京が、
ミサキは好きだった。
並んだまま、眼を合わせることなく、
言葉を捜していたミサキの口からこぼれたのは、
先日一人で気づいたことだった。
「子どもじゃなくなっても、大人にはなれないんだよ。知ってた?」
「何それ。格言?」
「躰が成長して子どもじゃなくなったからって、大人になれるわけじゃないってこと。大人としての行動や判断を求められはするけど。…大人になりたいなぁってさ」
じんわりと額に浮かんだ汗を、手の甲で拭う。
指先に移った微熱が、時間をゆっくりと回し始める。
次の言葉を待っている正樹の上半身が、かすかに揺れた。
その反動の続きで、グラスを口へと運ぶ。
「その人となら、大人になれると思う」
「大人って?」
「…」
「結婚したら大人になれんの?」
「…難しい」
正樹の刺すような視線を確かに感じながら考える。
「辛さが些細でも大きくても、大丈夫な気がした…」
まじめに答え過ぎて、何だか照れ臭ささえ忘れてる自分がいた。
「正樹とは大人になれないんだ、私。きっと」
「ハッキリしないわりに断定的なんだ?」
どう取り繕うようにして理由を探しても、どれも嘘になる気がした。
正樹は何でもないふうにしている。
それがかえってミサキを残酷にさせた。
「ああしたいこうしたいっていう欲望ばっかりが増えちゃって、相手の自由を許さなくなると思うんだ。もし、私たちが結婚したらね。恋愛としては成立しえても、永くは続かない関係のような気がする。欲求の塊みたいな子どもでしょ、私たちって」
自分の声が、
思ったより明るく響いたことに、ミサキはホッとしていた。
けれど、同時に、云い過ぎたと気づく。
それまでの流れで、冗談ぽくなるはずだった言葉が、
いつのまにか、互いをさらけ出す言葉に変わっていた。
そして、あっさりと告げたあまりに、
キツいニュアンスとなって、ミサキの口から発せられていた。
正樹の、一瞬止まった眼を見て、
自分のマイペースさを痛感するが、もう遅い。
同じように、さらりと
「ごめん、云い過ぎた」と云えない自分…。
謝るのもおかしいし、
かと云って何かフォローしても墓穴を掘るだけ、
と思ってしまう。
傷つけていると知りながら、気づかないふりをして、
何もなかったように振舞っている。
結局何も云えないまま時間が流れていく。
いつもそう。
正樹が優しく笑って、冗談を云って楽しませてくれているのをいいことに、
調子に乗ってしまう。
冗談が冗談でなくなるキツい言葉に、ミサキは、
自分の冷たさや自分勝手な一面を見ていた。
「相当ワガママな奴だな、おまえ」
「似てるじゃない、私たち」
内心の焦りを悟られないよう、眼の放つ強い輝きを保ってしまう。
先に諦めたのは、やはり正樹だった。
仕事にしても、生活にしても、
互いに好きなことをしてこられたのは、
どうしたって周囲の理解があったからだ。
たとえ自分が多少傷ついても伸び伸びと生きて欲しいと願い、
協力してくれる人々がいるからこそ、
私たちは好きなことを選択してこられた。
そのことをわかっているし、
自分と似た相手にそこまでしてあげられる力量がないことも、知っている。
けれど、正樹の包容力がなければ、
今の自分が存在し得なかったことにもミサキは気づいていた。
だから。
正樹とこの距離を保ちたい気持ちと、
突き放さなければダメだという両極の思いが、
ミサキの中にはいつもあった。
「どう、間違ってる?」
「…遠からず、近からず」
「そうやって巧く逃げるから、駄目だって云ってるんじゃない」
鼻に皺を寄せて笑った。
「そうかもな」
「今度紹介するから、彼のこと」
「俺に? 遠慮しとくよ」
テーブルに大きく乗り出していた躰を、軽く椅子の背もたれに戻す。
「どうして?」
「そういうのヤダね。仲良くしましょっての」
「なんで? 正樹も紹介してよ」
「…ミサキさ、大人になりたいんだろ? だったら誰とでも何でも共有しようとするのやめたほうがいいよ」
「…」
「全てわかり合うことが大人とは限らない…」
じっとミサキの眼を見たあとで、促すように立ち上がる。
「飲みに行こう。おごるよ」
その大きくて頼もしげな後ろ姿に心が泡立った。
そして、胸のどこかで、
これでいいのだという想いが生まれるのを、
感じていた。
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