ネオリアヤの言葉

ネオリアヤの言葉

君と~その距離を




僕に背を向け、君はずっと、夜辺から眠ったまま。
時折、寝息が訊こえて、心なしか、安心する。
足だけを布団から出して、畳の上に放り出した。
こうしていると、涼しくて寝つきがいいんだと、君が教えてくれた。
膝を立てた足の裏に、い草の感触を確認してから、躰を横にずらし、
全身でそれを受け止める。

「…ねぇ…」

君の声がする。

「…なに?」

頭だけ、君に向ける。
じりり、と畳と髪の擦れる音が、頭の中に響いた。
その先を云わない君と、訊けない僕。
君が口火を切ったのをいいことに、僕はそれ以上訊かない。
訊こうとしない。
理由はとても簡単で、云わないで欲しいから。
朝の、君の質問や言葉は難しすぎる。僕は単純だから、
君の言葉の奥にある意味を知る前に、答えを返してしまう。
でも、きっと、それだけじゃ君は不満なんだろうと察しがつくから、いろいろ考えるよ。
そうしてるうちに、最初の質問なんか忘れちゃって…、
結局、君も僕も黙ってしまうんだ。
だから、朝の会話は難しい。

「ベッドは、いつでも、すぐセックスできちゃうから嫌い」

君は、寝具売り場を横眼に、いつだったか云った。
でも、僕はそれでいいんじゃないかと思う。
君を好きだし、君を欲しいから、そう感じたらいつでも触れていたい。
君は違うんだろうか。
とりあえず、僕も小さい頃から布団の生活だから、いいのだけれど。

「でも、布団敷いて、さぁセックスしましょって、それもどうかと思うけど」
「でも…、それだけになるのはイヤ」
「僕らがそうだとは限らないよ。セックスだけになっちゃう関係があることも否定しないけどさ。…その考え方は違う」

唇を固く結んで、窓の外を見つめる君。
泣いてしまいそうな眼をして、夕方の薄暗闇で、君はまた黙り込んでいた。

云ったらいいのに。
怖いんだって。
描いているカタチが崩れたり、別のものになるのが怖い。
自分の想像の外に出会うのが怖いんだって。
君は、僕らの関係が進展することを恐れている。
それが、より理解しあうことであっても、傷つき別れを選択することであっても。

そして君は知らない。
そうして過ごす時間の怠惰と欺瞞を。
結局、なるようにしかならないし、もしかすると、
そのせいで本来の姿とは別の次元に進展するかもしれないことを。
遠回りすることは、決して悪いことじゃないと、僕も思う。
でも、この回り道にはあまり意味がない。
僕の見ている、僕が好きな君の姿が、見えないんだから。

君のためならば、僕はなんだってしよう。
君が望むのならば、僕はなんだってするよ。
だから、ひとつだけ約束して欲しい。
心をとじこめることだけはしないで。
君の小さな ひとつしかない心を…。


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