”名も知れぬ人たちへ”・【承27】

・・・ほんの少しのページだからこそ・・・

妻の傍にいたい・・・

週末,妻へ弁当をもって会いにいった。その日は体調が良かった。
私の得意な三色弁当。
妻と娘と私のと三個作ってきた,もちろんサラダ付きだ。
食堂,誰でも利用できる場所である。レンジも使い放題だ。

妻は,娘と話しをしながら,その話題は"バレエ"だ,もうすぐ発表会があるから・・・
弁当を少しつまみながら,笑顔がこぼれる,こぼれる。私はそれを見て笑う。
"やっぱり,おまえがいないとだめだな,三人が俺の家族なんだ。一人欠けたってダメだ"。
私はその笑顔を携帯電話で写した,2枚。
そしてこの2枚の笑顔が,正面で尚且つ私が撮った最後の写真になるとは思ってもみなかった。

この日,娘は夕方5時からバレエの練習,私は娘を教室に送ってから,また妻のもとへくる。娘がいない間の会話は,病気についてとか,であった。
「どうだい?体調は?」
「下痢と便秘は相変わらずだよ。抗がん剤やるとやっぱり調子悪いね」

妻は,テレビの下の引き出しから紙を取り出した。
そして私の目を見て,「入院費だよ,こんなに高いんだね,ゴメンね,用意できる?」と。
「何言ってるんだ,高いけど大丈夫だよ,なんとかやりくりするから心配するな」と。

・・・妻の傍にいたい・・・
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