”名も知れぬ人たちへ”【承40】

・・・複雑な気持ち・・・

娘には「お母さん退院だけど,まだ直っていないんだって。
今度は通院しながらの治療だからな。お母さん助けてやってくれよ」
「うん,わかった。でも退院良かったね」と。
まだ娘には病名『子宮頸癌』と伝えていない。
腎臓の病気としか言っていなかった。

この退院の日の1週間前のこと。
中学2年生になった娘はピアノの腕も大分上達していた。
”みんなで弾こう,スタインウェイ・・・ピアノマラソン”市が企画したもの。
文化会館の大ホールで1500万円もするスタインウェイを弾けるとあって参加者は多い。
このとき,娘はショパンの『幻想即行曲』をしっかりと弾いていた。

「お母さんが退院してきたら聞かせるんだ」って張り切っていた娘。
妻が入院する前と退院したあとではかなり違うはず。
なんて言うか楽しみな部分でもある。

娘に妻の病気のこと,いつ言おうかと私は考えていた。
だけどまだ早いだろうと思っていた。
もしかして奇跡が起きるかも,そうしたら笑って話せると・・・。

・・・奇跡?起きたらなー・・・
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