”名も知れぬ人たちへ”・【転9】

・・・入院長引きそう・・・

抗がん剤の副作用が早くも出てきた。
高熱・下痢・食欲不振・・・妻はそんな辛い症状と戦っていた。
とりあえず,入院道具セットを妻のベットの横において手を握った。
「大丈夫か・・・」妻の少しやつれた顔を見て言った。
「大丈夫だよ,ちょっと辛いけどね・・・たぶん一週間程度だと思うけど・・・。」

こんなに強いのをやらないといけないのだろーか?
今はこの方法しか道はないと言われているが。

序々に熱が下がってきた。白血球が増加するような注射を打っているからだろう。
増殖が頻繁に行われている組織に抗がん剤は働きかける。ガンには勿論だが
正常な細胞にも同様に働きかける。
何故,悪性の組織だけに効果のある療法が存在しないのか?
この科学の進歩した世の中で・・・。
二人に一人かな,三人に一人かな・・・今ガンに侵されている患者は。
こんなに身近な病気とは知らなかった。

妻は何をしたんだろーか?
何も悪いことはしていない。かえって感謝しなければならないのに・・・。
不公平だな,本当に不公平だ。
昔,良く言っていたなー『美人薄命だー』ってね,当然冗談だったけど。
そんな言葉まで私の脳裏に浮かぶようになってきた,まいったなー。

とりあえず熱が下がり,ようやくご飯を食べれるようになってきた。
でも大分やせてしまった。
退院は娘の行事,"合唱祭"の次の日,
バレエの発表会(別の地区の発表会に参加)の当日に決まった。

・・・とりあえず良かった・・・
次ページへ 前ページへ



© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: