”名も知れぬ人たちへ”・【転15】

・・・奇跡?起きてくれー・・・

奇跡,私の気持ちとは裏腹に,妻の心は次第に下降線をたどる。
それは,女の命でもある妻の髪の毛が桜が散るかのように抜けてくること。
止めようがなかった。
抗がん剤の副作用で抜け落ちることは知っていた。
私も妻も・・・だ。

この文章を書いていると,涙が止まらない・・・。

風呂に入る準備を洗面所でしていた。
妻はその抜け落ちる髪を手にとって,私の胸の中に・・・。
『死にたい・・・』

この文章を書いていると,涙が止まらない・・・。

『・・・』
私はなんて言ったらいいのか・・・?
でも何か言ってやらないと・・・。
『大丈夫だ・・・俺がついている,さあ風呂には入ろう・・・』

妻を入れた後、別の部屋で声を押し殺した。

この文章を書いていると,涙が止まらない・・・。

・・・奇跡?起きてくれー・・・
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