備忘録その 18. Weingut Peter Lauer
ツアー最終日。その日最初の予定は朝 9 時にザールのペーター・ラウアー醸造所、 11 時にそのすぐ近くのフォルス醸造所。午後は昨日に続いてザールのワイン祭り Saar Riesling Sommer に参加している醸造所を適当にいくつか廻るという、比較的楽なスケジュール。
朝トリーアを出てザール川に近づくと、霧が立ちこめていて視界が悪かったが、一山越えたら唐突に真っ青な空が広がった。ザール川の渓谷に沿って霧が溜まっていたものと思われ、やはり渓谷に近い葡萄畑に影響がありそうだった。
どのような形の影響になるかは、ペーター・ラウアー醸造所の当主フロリアン・ラウアーが説明してくれた。川に近い畑は辛口ワインの生産に向いていて、川から離れた畑は甘口に向いているのだという。例えば、シャルツホーフベルクはザール川から離れた位置にあり、見事な甘口を産する。川は気温の低下を防ぐ作用を、周囲の葡萄畑に及ぼすので酸が減りやすい。一方、川の影響がない場所では、気温が低下するので酸が高く留まる。つまり甘みとバランスすることで、持ち味が生きるワインになるのだという。
実際、川沿いにある彼のファス 11 ショーンフェルス Schonfels GG やファス 12 ザールファイルザー Saarfeilser GG は辛口で、ファインヘルブのファス 6 セニオー Senior やファス 12 ウンテルステンベルク Unterstenberg 、ケルン Kern 、ノイエンベルク Neuenberg は川から距離のある葡萄畑で、なるほど、と思った。 また、醸造所のあるアイル村で最も知られているのはクップ Kupp の畑で、お椀(カップ、 Kupp )を伏せたような形の南向き斜面なのだけれど、フロリアンは山頂部の区画をファス 15 Stirn (シュティルン、額の意)、中腹の区画をファス 18 Kupp 、麓の区画をファス 12 Unterstenberg (山の一番下の意)として別々に収穫・醸造している。
丘の標高は約
170m
で斜度約
70%
。土壌は粘板岩なのだけれど、山頂から麓にかけての区画によって粘板岩の大きさが全然違う。山頂部ではごろごろとした礫なのだが、中腹ではやや小粒に粉砕されて、麓では細粒になって粘板岩には見えない。ワインの味も明確に違っていて、
Stirn
が繊細で透き通るような軽さ、
Kern
がストレートで緻密、
Unterstenberg
が緊張感に満ちつつ内側からにじみ出してくるような複雑な味わい。区画による個性を精緻に表現している。
雨がちで暖かく、収穫の急がれた 2014 年産は 30 人体制で臨み、一つの区画を 3 ~ 4 回選りすぐりながら収穫した上に、圧搾は房の状態に応じて全房か破砕かを使い分け、プレスもフリーランジュースと中間と終わり頃を分けて醸造したという。「そうしなければならない必要があったからやったので、やらないですめば、それに越したことはないよ」と笑っていた。
フロリアンはモンペリエで栽培醸造を学んだだけあって、フランス語も堪能だった。学位論文は確か、熟成したザール産リースリングに表現される葡萄畑の個性について、だったと思う。醸造所の所有する葡萄畑が良いこともあって、フロリアンが 2005 年に醸造に携わる以前から魅力的なワインを造る醸造所だったけれど、彼の代になってから年を追うごとに迫力を増している気がする。今後も注目したい。
(つづく)
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