師匠の贈り物
ゴールデンウィークに家に帰り、前の畑を久しぶりに眺めたら見慣れない白い花をいっぱいにつけた木が眼に入った。その木は高さ3mほどになり、白い細い花弁が房状になり、樹木全体が雪でも降ったように被われている。家にはいろいろな花木が植えてあるのだが、みたこともない花をつけたこの木のことを思い出すには一瞬の間が必要であった。
『なんじゃもんじゃ』別名『ひとつばたご』である。外来種のようであるが、東濃地方にこの大木が天然記念物になっているところがあり、そこから広がったようである。わが家のものは名鉄病院時代に師匠の片岡先生から実生の苗を戴いたものである。この木は実生でないと繁殖しないようで、実生の苗から花をつけるまで約10年かかるようである。その話は師匠からきいていたのだが、花の咲かない10年はそれを忘れるのに十分な時間であった。
考えてみると10年というのは外科医にとってもひとつの世代交代の周期になっている。片岡先生の指導のもとに外科の初期研修を終えて10年、ふっと気がつくと蒲郡で師匠と同じ立場で研修医の指導にあたっている。今蒲郡に根をおろし、あちこちに枝を伸ばし次の世代の苗を育てようとしている。10年前の師匠の苦労が偲ばれ、師匠の通った道を今歩んでいることを突然認識させてくれた洒落た贈り物に感激している。
弟子たちが10年後花の咲かない『何じゃ門じゃ(どこの門下生か?)』にならないように土壌整備に精を出すとともに、また10年後に弟子たちが輪廻転生に気がつくよう『なんじゃもんじゃ』の苗を贈ろうと思う今日このごろである。
(愛知医報第1451号掲載)