東京なな猫通信

東京なな猫通信

16年目に幸せになった犬・リッチ



動物愛護、里親募集の世界では
自分の家で飼っていた動物を手放すことを、飼養放棄といいます。
この呼び方にカチンと来る飼養放棄飼い主も多く、
里親を募集するにあたり、あなたは、一度は可愛がった動物の飼養を
放棄したんですよ、この里親募集は、そういうことなんですよと
ご納得いただく必要がある場合もあります。

大抵はいろいろな辛い事情があり、
飼い主は泣く泣く飼い犬・飼い猫の飼養を放棄し
よそに里親さんを探します。

だけど世の中には、その飼養を放棄して「欲しい」と
周りが思うような飼い主がいます。
そのもとにいるなら、この動物は不幸以外のなにものでもない、
そう感じる飼い方をしている飼い主です。

東京のとある場所で、まきこさんは、ある犬に出会いました。
以下、まきこさんの記述から編集の記録です。

明らかに彷徨っていたその犬を、まきこさんは怪我をしてまで保護し
病院にかけました。
歯と耳の中は以外と綺麗なのに、犬歯が削れている。
相当にいろいろなものを噛んできて、ケンカなどで欠けたのではなく、
食べ物を探し漁って、いろいろ口にして噛んだために出来た削られ方。

runn

リッチ保護時

耳に腫瘍もあり、血液検査やワクチン等を施し、
トリミングまでして見違えるように綺麗にしました。

きれいになったリッチ

なでられるのは抵抗がないのに、抱きしめられると怖がる。
体罰を受けていないにしろ、愛情を受けていないとまきこさんは見ました。
野犬のように「人は全て敵」とするのとは違い、「人は敵ではないが、接し方が(甘え方が)わからない」のだと。

シャンプーをすれば、首から下はほとんど毛玉。
歩くだけで抜けそうな毛玉がフワフワ飛んで行き、
取れた毛だけで高級なクッションが一個できるくらい。
お腹をなでると、あばらが手に当たる。
そして、さまざまなものを漁って削れた犬歯。
どんな飼われ方をしていたのか。

まきこさんは、この子に「るん」と名付け、
しつけの先生にも見てもらい、耳にできていた膿みかけの腫瘍も乾いてきれいになりかけた時でした。

目がキラキラ

この犬に、飼い主が見つかったのです!

連絡を取り、飼い主《若いお嬢さん》を見たるんは、尻尾を振るどころか
執着を見せる素振りもない。
飼い主も落ち着いた様子で、見つかったことを泣いて喜ぶわけでもない。

しかも飼い主はポメラニアンを連れてきており、そのポメは綺麗にトリミングされていました。
保護当初、るんは飼われていたとは思えない汚さでした。
彷徨っていたとはいえ、このポメとるんの違いは何なのか。
見違えるようにきれいになったるんを見ても、感嘆の言葉もなく、
感動の再会とはほど遠い空気がありました。

お宅に伺ったまきこさんが見たもの、それは
るんのリードが結ばれていた先に、おばあちゃんの車イス。
要介護のおばあちゃんを抱えるこの家で、お母さんは一人きりで
仕事・介護・家事、そしてるんの世話をしていました。

るんは外で飼われながら、忙しすぎるお母さんに
片手間に世話されるしかなかったのです。
老犬になったるんは、もはや外にいる“ただの犬”で、
新しく来た愛らしい室内飼いのポメが
可愛い服を着せられて、やはりしつけもなく可愛がられていました。

るんは外で、雷を怖がって吠え、
耳の傷の匂いに集まったカラスに襲われて吠え、
「リッチ煩い!」 としか意識してもらえず、
《リッチという名前だった》
必死に吠えて、怖さと戦って暮らしていました。

るん《リッチ》は何に吠えていたのでしょうか。
煩い犬と思われていたるん。
耳の傷口に襲い来るカラスに「やめて!やめて!」と叫んでいたのではないのか。
そして他人の誰かが「吼えて煩い」と庭に入り込んで
るんのリードを外し、るんは逃亡しました。

人間に慣れていないのに、人間を恨むわけでもなく、
人間に攻撃もしない。
その、可愛い眼の理由は、こんな生活にあったのでした。

まきこさんは、もう14歳にもなると知ったるんの
今後の飼育についてお願いし、
室内用トイレ付きの大きいサークルまでプレゼントして、
幸せを祈るしかありませんでした。
他人の飼い犬だからです。


それから1年。
“姑が脳梗塞になり介護が重くなって、リッチのいた2階に移したため、リッチはまた外に出したが耳の傷が悪化した、悪臭もひどいのでお願いしたい”という、驚きの連絡に
まきこさんが再び会ったるんは、見る影もない姿でした。

1年後のリッチ

目にも光はない

すぐに病院に。耳の腫瘍は、悪性でした。

痛そうな耳

骨には付いていなかったので、腫瘍をそこだけ取る手術をし、
mixi里親さがしコミュで、里親さん募集が始まりました。

たくさん、たくさんの応援の声が集まり、
その中から、遂に里親さんが決まって
5月28日、るんは、新しい家族のもとに旅立ちました。
16年間、飼われていながら世話をされず
耳の病気や痛み、いろいろな恐怖に苦しんでいた、
それでも人間を恨んだり攻撃したりせず
ただただ自分の境遇のなかでじっと生きていた犬が
ひとりの人の熱い思い、
この犬を助けたい!という気持ちひとつで
幸せになりました。

るんの里親さんは、嫌な思いもあるはずのリッチという名前だけれど
それが16年間仮にも呼ばれていたこの子の名前だからと
家族会議の結果、リッチと呼ぶことにされたそうです。

里親さんのもとで

リッチの気持ちをなによりも優先させてくれる新しい家族を得て
16歳のリッチの、これから新しい犬生が始まります。

あったかい毛布もあるよ

以前、この「なな猫通信」でも
沖縄で保護されて幸せになったJOYくんのことを書きました。

9年間30cmの隙間から外を見ていた犬が、外へ、自由へ!

このJOYも、地元のボランティアさんたちの力によって
9年間の地獄から救出されました。

あかの他人、一円のお金になるわけでもない、
むしろ飼い主との折衝や
不的確飼養のために大抵は必要となる、莫大な治療費など
割に合わない、嫌なこともたくさんしなければならない
飼い犬・飼い猫を飼養不的確飼い主から助ける活動を
いま、多くの保護ボランティアさんたちが
地域猫の世話や保健所レスキュー活動の合間にもしてくださっています。

日本の法律、また日本人の意識として、
まだまだ飼っている動物は、その飼い主の「所有物」であり
その所有権を放棄してもらわないと
どんなに動物たちが酷い目に遭っていても、
たとえ殺されたとしても、なかなか手出しが出来ません。

そんな法律は変えていただきたい。
また、そんな認識を日本の飼い主のこころの中から根絶したい。
それが、動物保護に携わるすべての人の切なる願いです。

もうどこにも行かないんだ

リッチ、シッポを振るのをやめないそうです。
幸せに(*TдT*)


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