Laub🍃

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2012.09.13
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 とにかく、柾目ちゃんを探さなくては。
 湧いて出た不安を押し殺して起き上がる。

 起き抜けのような感覚で力は入らないけれど、いつもの癖で「柾目ちゃんの為に起きなきゃ」と自分に呪文を掛けて起き上がる。

 やっぱり柾目ちゃんというのは僕にとっては命綱のような存在で、それも他のどんな綱よりも安定していて握りやすい綱のような存在で、それは起きている柾目ちゃんが僕の思い出に成り果てても心の真ん中にあるお釈迦様の蜘蛛の糸。

 それでも、僕がずっと縋り続けたせいでその綱は擦り減っている。

 僕はもしかしたらその綱を補充する為に柾目ちゃんを求めているのかも―――……

いや、駄目だ。こんなことばかり考えていては、前に進めない。柾目ちゃんの助けになれない。


 さわさわと時折鳴る草をかき分けかき分け、草原を照らす光源に近付いていく。

 背の高い草は僕の身長を超し、2mに到達した辺りで細い葉先を揺らしている。

 唐突に、女の子がトウモロコシ畑の中を歩んでいる国民的アニメのワンシーンを思い出す。
 女の子が、行方不明になった妹を探すシーンも思い起こして、今の状況と少し勝手に重ね合わせてみる。
柾目ちゃんはお地蔵さんの近くにでもいるんだろうか。いやいや、見付ける為には僕はあの心優しいけれどよく眠っている妖精に会わねばならないな。

 光源は次第に近付いているようだ。

 竹藪の中で光る竹を見付けた翁もこんな気持ちで近付いていったのだろうか。

 今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。 名をば、讃岐の造となむいひける。 その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。あやしがりて寄りて見るに――

 中学生の時の柾目ちゃんの音読を思い出す。先生の前で暗記した一文を読むんだけれど、何度練習してもどこか間違えた。だけど何度間違えて言い直しても柾目ちゃんは楽しそうな顔で、覚え切った後ならみんな笑っていたけれど柾目ちゃんはそうじゃなくて、いや、少し悔しそうな顔もしていたっけ、柾目ちゃんを思い出すといつも笑っているけれどいくつも種類があったのを僕が見抜けなくて柾目ちゃんの楽しいに種類があったのにも気付けなくて。



 草を透かして微かに見えていた光は今では目が眩むほどの明るさになっている。


 あと数メートル、走れば一息。ここを抜けたら何がある?




 白い黄色い金色の光。

 柾目ちゃんがよく選んだ服の色。

 派手な色の服をお母さんがよく作るからと、自分で選ぶ服はいつも白とか、生成りばかりだった柾目ちゃん。




 この世界では、どんな色の服を着ているんだろう。





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最終更新日  2015.06.12 01:58:28
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