Laub🍃

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2012.09.24
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 寿命で死ぬ事は稀とされる時代、処刑よりも戦死、拷問よりも病で死ぬ方がましという風潮さえ出来上がっていたそうです。

 その内、喧嘩両成敗とでも言うかのようにどこかから持ち込まれた疫病が蔓延しはじめましたが、それは人々の争いを止めるには至りませんでした。

 病人や死体が疫病の発生源ということは分かっていたので、戦、潰し合いの時にはよく大砲の弾の代わりに病人の身体が敵陣に投げ込まれました。槍や剣の刃には感染者の血が塗られました。武器商人と病気は、倒さねばならない相手の居る彼らにとっては味方でさえありました。

 しかし、戦と革命が一段落した頃にとある国を支配していたのは革命派でも、勿論王族などでもなく、疫病そのものでした。

 人口は順調に減少していきました。赤子年寄りから死んでいきました。
 革命で 比較的 ・・・ 優勢になった者達は部屋に閉じこもり、名医に罹りましたが焼け石に水。
 むしろ名医が先に死にました。

 当然の話ですが、そんな時に武器など何の役にも立ちませんでした。


 塞いでも治しても疫病は蔓延したまま。いずれどこかから忍び寄り、誰かを殺しそしてその次の宿主へ向かいます。
 …更に都合の悪い事に、その疫病はヒトなどよりもずっと強かったのです。

 死体を埋めても焼いても、疫病は生き残り続けました。そして土壌や地下水、煙などから疫病が広がりました。


 手段は二つ。無事だった人々が国を捨てるか、死体をどこかに誰かが捨てに行くか。

 ……人々は、「伝染してもかまわない」低い階級の者や、わざわざ彼らと行動を共にした医師達を捨てる役に任命しました。

 ある国には巨大な山脈があり、そこを越えると短い砂浜が広がっていたのでそれを利用すれば……「水葬」をすれば国の中でいたずらに疫病を広げることはありません。その間だけ権力者の人々は他国に身を寄せ、ほとぼりが冷めたら帰って来る事にしました。

 負債を帳消しにしたり、ある程度の望みなら叶えてやったりすることを条件に、人々は水葬役に穢れを押し付けました。少しの食糧を持たせ、人々は水葬役を山の向こうに送り出しました。
 勿論「帰ってこなくていい」と言って。

 現在山脈の背骨のように立っている白い骨の垣根、『門』はその頃から築かれ始めました。

 ー人々の誤算は、「水葬」された筈の者達が、明らかに生物的に優位な異能を持ち還ってきたということでした。
 そして水葬から還ってきた者達は水葬役達と結託し、山の人々に牙を剥きました。
 還って来た者達の持つ異能の中には、疫病を治し、子々孫々の代まで病に罹らぬようにするものもありました。

 その異能を持った者は『癒者』と呼ばれ、山の人々との取引に使われました。
 山の人々が己たちに対し「能力を捧げるのが当然」と思っている状態を、海側の者達はどうにかしたかったのです。
 ……けれど、はじめのうちはうまくいっていたように見えた交易取引も結局は奪い合いに発展し、渦中の「癒者」も結局は命を落としてしまいました。

 かくして山の向こうと、浜を広げて作られた大きな平原は隔絶されました。
 かつて浜と山中を繋いだ白い門は、今は小競り合いで真っ赤に染まっています。

 両者は互いに相手を見下し合い、隙あらば領土や能力、資材を奪い合い、関係の修復は困難を極め、大して発展もないまま現在に至ります。

 一方、浜の者達は弱者同士で結託すると思われました。しかし、異能持ちにも格差がありました。
 強い者、山の向こうの人々との争いで功績を上げた者は、子孫には安全な生活をさせたいと望むようになりました。そしてより山から離れた場所に陸を造り住まうようになり、宮殿まで築き上げました。……能力や機会や要領や戦う意志が薄弱であった者達は、山際の前線に取り残されたのです。

 しかし山際の民も、腑抜けではありません。異能以外の力を得ることに一歩踏み出しました。

 ところが。なんとそれは暴走してしまいました。かくして山でも浜でもない第三勢力、崖の民が出来上がってしまいました。彼らはある意味山の向こうの人々よりも手強かったそうです。

 そんな第三勢力の鎮圧に疲れ果てた浜の者達は、山・浜と争い疲れ果てた崖の民の一部に話を持ち掛けました。暴走した民を抑え込めたらある程度は宮殿への移動に便宜を図り、また山の向こうとの闘いでもって多く宮殿の者の力を貸す、と。それを餌に、味方を裏切らせたのです。

 崖の民の中で暴走した存在ー化け物は、崖と浜の間に築かれた砦に追い込まれました。
しかし砦にて、化け物の一体が茨と化し砦を封印し、手を出しも出されもしないようにし……かろうじて現在、その砦を宮殿側が人質に取る形で拮抗が保たれています。

 ー何年も経つうちに、そこは『廃殿』と呼ばれるようになりました。
 崖の民たちの一部はそれでも『廃殿』の化け物ーもといカミサマが復活する日を待ち望み、宮殿側からは不穏分子としてみなされてしまいました。
 ーああそうそう、カミサマを裏切った人々や、宮殿の中でカミサマに積極的に闘いを挑んだとされる者達には『呪い』と呼ばれる、身体・精神・能力的な異常が顕われましてね。
 そうした人々は宮殿に『敵の研究』として確保されたり、崖の民に『カミサマの臣下』として確保されたりと色々と大変なようでしたね。

 ……今から数年前、その廃殿の封印が解かれまして……恨みと私利私欲でもって現状はどろどろのぐちゃぐちゃになっているのですが、それはまた後でお話するとしましょう。



 さて。最初にお話ししましたね、水葬で流された者は異能を得て還ってきたと。
 ……この水葬から還ってきた者達は、水葬された当の人ではありません。

 我々の父祖――

 どこかの異世界から次元の歪みで迷い込んだ者が、代わりに連れて来られていたのです。

 海に捧げられた死体の量と質に見合った、身に余る力をなにものかに預けられて。

 そして、その次元の歪みを人為的に起こし、任意の人物を連れて来るように発展した技術が、貴方に行った「召喚」です。


――――――そう、目の前のロノスと名乗る少女は話した。

to be continued... ?





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最終更新日  2017.03.19 18:02:54
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