Laub🍃

Laub🍃

2012.09.25
XML
カテゴリ: .1次メモ
「もう一つの的はどこ行ったぁ?」
「知りません。ああ、でも行くとするならここらへんですかね」

 言って、僅かに足を踏み出す。ちらとその姿が見えた途端に先輩の手が動く。電光石火。
 私を片付ける前に、瞬く間にそいつは片付けられてしまった。文字通り、塵一つ残さず。

「大体かたはつきましたね」
「まだお楽しみが残ってんだろ、一緒に楽しもうぜ」
「すみません、ちょっと私用がありますので急がせてもらいます。……先輩も、今回は少し控えた方がよいのではありませんか?」

 そう言ってちら、と先輩の足を見る。

「あぁ、これか?気にすんなよ、可愛い子猫ちゃんからちっと反撃を喰らったってだけの話だ」



「……全く、あんたの後ろに救急箱が控えてるってのは分かってますけど、こっちは冷や冷やするんですからね、勘弁してくださいよ。どうせそれも女遊びしてる途中にやられたんでしょう?」

 軽く睨むと先輩は全く堪えてないように笑う。

「ご名答。いやー、誑し込んだと思ったんだけどね、意外と演技が上手いんだねぇ最近の若い子は」
「生きる為か殺す為なら誰だって必死になりますよ」
「お前は必死になっても下手くそだから可愛いよな」
「褒めても何も出ませんよ」

 先輩の伸ばした手をするりと躱して階段を上る。
 恐らく先輩の怪我は、先輩が『内通者』に仕立て上げた彼女からのものだろう。
 情報を与えて安心させ誘き寄せ、全滅させる為の罠を仕掛けて待機。15歳程度の駒にやらせるとは、ここのお屋敷もなかなか人使いが荒い。
                 ・・・・・
 誤算は、先輩が彼女の罠に掛かってあげられるくらいの度量を持ち合わせてたこと、そんな罠なんて逆にこっちが利用してやるってことを、裏の裏の裏までかくだけの頭を彼らが持ってなかったことだろう。



 きっとこの屋敷の非戦闘員、またの名を無関係者、もう一つ重ねて言うならここの屋敷に誘拐されてきた奴らだ。

 証拠を残すわけにもいかないし、奴らの中に復讐を誓うような完全に奴隷化されているような奴が居ても困ると言う事で一頻り楽しんだ後は殺す手筈になっている。

 たまに、上司の一存で何人かがその中から仲間になることもあるが……その為には、奴らで遊んでおいたことが功を奏すこともあればそうでないこともある。
 私が上司から先輩のストッパーになるよう任じられている理由として大きいのは、それだ。

「大体、弱い者をいたぶって何が楽しいと言うのです」


 下衆が、と呟くと彼はお前もだろ、と嗤って返す。

「強い奴が泣いて頼み込んでるのを笑いながら甚振る様な奴に言われたかないね」
「相手が高い所に居ると思っていれば思っているほど、時間をかけてゆっくりと引き摺り下ろしてやりたくなるでしょう」
「だからぁ、お前のやり方はすっげぇ地味で見てて欠伸が出るんだって」
「人に見せる為のものではありませんからね。私とこれから死ぬ標的、その対話だけで上等」

 だから邪魔しないで下さいよ、と舌なめずりをする。

「分かってるよ自慰野郎」
「ありがとうございます、自己愛先輩」

 私達は共通している。
 他人の傷を抉る事で自分を殺すことが何よりも好きなことが。

 ゆえにきっと互いに傷を抉り互いの体内に侵入しようとする時は、来ない。

 何もかもを犠牲にして踏み込めるのは、相手か自分をどうでもいいと思える時だけだから。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2015.10.04 20:50:10
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: