Laub🍃

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2012.11.02
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カテゴリ: .1次長
*俺の仕事は、風俗のスカウトとさほど変わりない。
 居場所がなさそうな、寒さに震えている子をかどかわしてやばい処へ連れていくお仕事。

 そこで生き抜くか、死にたがりになるかは、各々の自由。
 俺は出来るだけ生きてほしいとサポートするが、そこまで強制するほど俺は熱血でもない。

 俺自身が生きたいか生きたくないかもよくわからなくなってしまっているからかもしれない。


 大量の人と日々接しているのに、人情味が深まるどころかどんどん薄れているように感じるのは気のせいだろうか。

 気のせいだと、いいんだがな。


プラナリア系男子の憂鬱


 この世界では、異世界からトリップしてきた人間たちは知り合いが居れば「ワケアリ」として丁重な扱いをされる事が多い。しかし、知り合いが居ない場合は「無所属」として扱われる。

 しかし「無所属」の「新入り」が許されるのは、トリップしてからこちら数週間までだ。


 何にも縛られない代わりに、何にも守って貰えないのだ。
 それでもやっていけるような強いーあるいは便利な「異能」を持つ者は、ほんの一握り。

 故に。
 原則として、みな”所属を表明する印”を、周囲に見えるよう身に着けていなければならない。

「崖」ならば蟲入琥珀を、
「宮殿」ならば聖像の花石を、
「海底」ならば金属レリーフを、
「新入り」ならば黒化済人魚骨を。

 そして、一度所属を決めたら各所属のお偉いさんによって、離れることを難しくする呪いをかけられる。
 自分以外の誰かによって身に着けていた場所を切り落とされたり、無理やり剝がされたとしても、その身に戻る呪いだ。

 ただし、自分で外そうとすれば簡単に外れるのが、この制度の怖い処だ。


 裁く相手がスパイでなくとも、優柔不断だろうと周囲の忠告を耳に入れない愚か者だろうと人と接する機会に欠けた独り者だろうと、制度は制度。
 良くて中立地の監獄に閉じ込められる、悪くてその場で拷問され殺される。

 俺の仕事は、この世界にトリップしてきた人間の内このシステムが受け入れられない人々を救う仕事だ。
 嘘臭いな。
 綺麗に取り繕うのはやめておこう、最終目的は自陣「山」の研究所に誘致して利用することだ。


「…なんだ、そいつ?」

 だが、連れてきたからと言って必ず自陣の力にできるというわけではない。
 目の前の上司は怪訝そうな顔をしている。あんたの要求水準が高すぎるんだよ畜生。

 今回、連れてきたのは団体様。だがその内精神的体力的に研究所で使えそうなのは一人しか居なかった。
 緊張した面持ちのそいつを横目で確認しながら、慎重に口を開く。

「志願者の中での適合者、この人だけだったんですよ」
「まあまあ、いいじゃん。試しに使ってみようよ」

 もう一人ー俺と運命共同体、というか腐れ縁の上司は何でもかんでも興味を持つ。
 やつの部屋はがらくただらけで、俺たちも同じくぽんこつだらけ。
 それでもこいつは拘らない。
 俺たちに興味がないわけじゃない、全てに興味がありすぎるんだ。

 だから俺は、それでは嫌なんだろうといった者たちはやつの妹の処に逃がしている。

「……よろしくお願いします、佐藤博士」

 人は、捨てる為に選ぶんじゃない。
 助ける為に選ぶんだ。

 選ぶことで何かを犠牲にすることを恐れ過ぎてはいけない。
 選ばないってことは、他の全てを犠牲にするってことだからだ。

「因みに、志願者じゃないけど適合した子と適合者じゃないけど志願した子がこちらです」

 志願者以外の子、不平不満疑心暗鬼渦巻く子供たちを紹介する。

 俺たちの会話への態度は皆それぞれ違う。危機感が足りてないからこそ、個性が出せているんだろうか。それとも自分を守るために個性を出しているんだろうか。

 だが、アホ面引っ提げて聞いている子も、どうでもよさそうに目を逸らしている子も、真摯に運命を受け止めようとしている子も、何が始まるのか分からないためにわくわくを抑えきれない顔つきの子も、みんな揃って利用されるのは同じ。

 だから俺の接し方もいつもと変わりない。

 俺はまだ一応下っ端寄りだから子供たちを不憫に思いはするものの、だからといってサポートの域を越えて助けるつもりはない。

「えー、じゃあこの子達に力になってもらいたいな~おれは」
「駄目です」

 だが、代わりにサポート職務の範囲内なら、何をおいても守り抜く。
 規律。これが俺をかろうじて俺足らしめるものだから。

「……佐藤博士、彼らについてはもう少し成長を待ちましょう」
「嫌そうな顔してる子も?」

「……戻れないのですから、その内にこの子たちも覚悟を決めるでしょう」

 何回死んでも蘇ってきた俺のように、いつか「こう生きるしかない」と決める時が、きっと来るんだろう。
 さて鬼が出るか蛇が出るか。

 薄っぺらな言葉を吐く。

「お手柔らかにお願いしますよ、佐藤博士」
「はいはーい、任せて任せて~」

 嫌な毎日だ。
 だが、そうするしかない。
 そうするしかないんだ。

to be continued... ?





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最終更新日  2017.04.28 15:48:02
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