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『ドンナ・マサヨの悪魔』に続き村田喜代子は5冊目である。
『ドンナ・・・・』よりも、こちら『あなたと共に逝きましょう』のほうが、面白く読めた。
60歳を過ぎた夫婦の話。夫は機械の設計事務所を持っていて、妻は大学で服装について教えている。娘は結婚して海外に居る。互いに独立した生活を送っている。
ある日、夫に弓部大動脈瘤が見つかる。そのまま放っておけば、必ず破裂して死ぬ。早速の検査とその後の手術が求められるが、夫はなんだかんだ言いながら、自然に治らないかと思う。妻は、人から聞いた民間療法に頼ろうとし、夫と共に温泉にいったり食養をする。しかし、瘤は小さくならず、ついには手術・・・。
妻には大学に稲葉梨江という友だちがいる。その梨江とのこと・・・、
将来、夫が死んだら、と楽しい夢を語るように言った。私と梨江のそれぞれの夫がちゃんと先に死んで、あの世へ行ったら、それから何をして暮らそうかと。夫が死んだ先にまだ将来というものがあると何となく思っていた。/むろん夫が死んでも明日はある。日にちは続く。しかしその明日は、将来、と呼ばないのだ。将来とは人生の連れ合いが欠けたりするようなことのない、もっと翳りのない、まだ何かいろいろ充実してやることがある、そういう日々のことをいうのだ。/圧力鍋を火にかけながら私は思う。
病院でもらった『患者様の心がけ』。病院の冊子は、穏やかな心を持つことをすすめている。
よく笑うこと。ゆっくりと話すこと。腕時計の針を進めない。他人を許すこと。自分の非を認めること。何が何でもかならず成果を出さねばならないとは思わない。自分の挙げた成果を、必ずしも他人は百パーセント認めるとは限らないことを知る。家族との穏やかな時間を作ること。
さて、『あなたと共に逝きましょう』だが、民間療法のこと、動脈瘤のこと、鯉こくを作るところ、それぞれのディテールは通り一遍ではなく、深く切り込んでいる。それが並大抵のものではないことは読んでいるとひしひしと迫ってくる。
村田喜代子は、黒澤明監督の『八月の狂詩曲(ラプソディー)(1991)』原作『鍋の中』からで、次には10年ほど前『蕨野行』そして、『鯉浄土』と『ドンナ・マサヨの悪魔』。
『ドンナ・マサヨの悪魔』は子供が生まれるものだが、常に死が付き纏う。

あなたと共に逝きましょう
村田喜代子
装画 東郷青児
装幀 菊地信義
2009年2月28日第一刷発行
朝日新聞出版
『手仕事の日本』 2015.10.16
『ひらがなだいぼうけん』 2015.09.26
新折々のうた2 2015.09.25