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千菊丸2151 @ お久しぶりです。 仙人草さま、お久しぶりです。 イケ君…
mifess @ お元気ですか 2012/03/01 仙人草21さん >その後、記事の掲載が進…
仙人草21 @ こんばんは。    mifessさんへ お元気でお過ごし…
mifess @ お元気でいらっしゃいますか? 生活環境が種々変化してくると、言葉に出…
仙人草21 @ kyonkyonさん、こんにちは! いつも温かいコメント、ありがとうござい…

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俳ジャッ句      耀梨(ようり)さん
Feb 8, 2010
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 ぼくは、その夜、夢を見た。

呼んでも、呼んでもイケは振り向かなかった。

「イケーッ、ぼくはやっぱり、絵描きになるよーッ。イケは、ナスカに行くんだよねーッ。ぼ

くも、一緒にいくよーッ。ナスカの大地の絵、海に咲く花の絵、母さんの絵、ぼく、描くよ

ー。ぼくはねー、おじいちゃんにも母さんにも、安心してもらうんだー。

ぼくさー、凄い絵描きになりたいんだー。ゴッホや、ピカソみたいにだよー。イケー、イケー

ッ。何で行っちゃうんだよーォ。ぼくの話、聞いてよォーッ」

 ぼくは何故、あんなに説明しているんだろう。絵描きになりたいなんて言って。

母さんとおじいちゃんを、安心させたいなんて言って。



何だか、舞台で演じているぼくを、観客席でみているぼくが、いるみたいな感じ。

そんな不思議なことって、あるだろうか

こんなこと、はじめてだ。

ぼくは、夢の中で、そんなことを考えていた。 

 イケは、振り向きもせず、いつもするように背中を見せたまま、片手を挙げた。ずんずん早

足で、歩いて行ってしまう。

「イケー、待ってったらー、イケーッ」

 イケの姿は、だんだん、薄くなっていく。

ぼくは、懸命に追いかけているのに追いつけない。足がからまりそうになる。

ぼくは、もどかしくて、泣きそうになった。

イケは、いつの間にか、消えてしまっていた。



いのに。

夢って、とても不思議で、とても面白い。



  ぼくは、朝、いつもより早く家を出た。

「ルイ、いつもより早いんだな。気をつけて行けよ」

 ぼくは一瞬、緊張した。



でも、おじいちゃんは、それしか言わなかった。ぼくの気持ちは、少し緩んだ。じわんと、温

かいものを、感じた。

「うん。行ってくるね」

 ぼくは、ちらっと、おじいちゃんの顔を見た。

――この人を、苦しめてはいけないんだ――

 そう思いながら、でも、ぼくは、

イケと奴らの問題の中に、入っていこうと決心、していた。

――最後だから。これが最後だから、おじいちゃん――



 イケの家の方を回って、登校しようと思った。

イケがカバンをしょって、学校へ行くところだった。

ぼくは、とっさに生垣に隠れた。

イケが黒いTシャツを着てる。

いつもは、白いTシャツが茶色っぽくなっているのを愛用してるのに。いつものイケと、少し

違う。

――黒も、持ってたんだ――

 ぼくは隠れたまま、しばらく、そこでやり過ごした。スニーカーの紐を結びなおしたりし

て。

 ぼくは、いったん、家の方に戻ってから学校を目指そうとした。

――マズイ。もう、隠れるひまなんか、ないッ――

 こんな時に、何てことだろう!

マサル(おじいちゃんの親友だ。おじいちゃんは、いつも、こう呼んでる)が、自転車に乗っ

てやってくるのに、出くわした。

「おッ、じじいのとこの、ボウズじゃ、ねえか。こんな所で何してんだよ。学校、遅刻する

ぞ」

「まだ、平気です!」

「急げッ。ボウズ。お前の父ちゃんは、秀才だったんだぞ。遅刻なんかしなかったぞ」

「遅刻なんかッ、しません!」

「おッ、生きがいいねぇ。さすが、じじいの孫だ。それ、急げッ」

 ぼくは、むかっときてる。

命令されて急ぐのは、イヤだったけど、急いで走ってしまうのが、マサルから解放される一番

の方法なのだ。

 父さんのことを言われても、もうぼくは、めそめそなんかしない。

父さんは、ぼくの誇り。

父さんのことは大切に、ぼくの心にしまってあるから。



 イケは、もう学校にいた。

「イケ、奴らから連絡、あった?」

 ぼくが訊くと、

「奴らって、何だ?連絡ゥ?」

 イケはとぼけている。

茶化している。

何だか、変だ。

「朝の挨拶がないよ、ルイくーん。お早う、だろ?お早うが、ありませんよー」

 ――あ、奴らから、イケに連絡があったんだ。きっと、今日だ!――

 ぼくは、まじまじとイケの顔を見た。

                            つづく





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Last updated  Feb 8, 2010 04:27:52 PM
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