6)Ciao! Firenze!!

ガラガラガラ・・・
窓の外の音で目が覚めた。多分清掃車だろう。こんな朝早くからご苦労なこった。時計は八時少し前を指している。
この街は世界遺産に指定されている。この石畳の道をダビンチやミケランジェロ、ボッティチッェリが歩いていたかも知れない、そんなことを想像するとなんだか不思議だ。
しかしいい事ばかりではない。この街の中心部では、屋根の色、壁の色、窓枠の色が決められている。窓の外に洗濯物を干すことさえ許されない。すべては美しい街の景観を守るため。akimoの同居人が窓から足ふきマットを干していたら、向かいのアパートの人に怒られたそうだ。裏通りなんだけどそこはイタリア、住民の美意識は高い。街を歩く若者や女性はもちろん、おっさんまでもオシャレしているのがわかる。

ところが、そんな『おしゃれな街』を歩くのに注意することがある。それはウンチョス。この街には犬が多い。どの犬もしっかりとしつけられていて、吠えたり噛みついたりしない。それどころか、人込みのなかでも綱なしで連れている場合もある。でも飼い主は、ウンチョスを片付けない。夕方になると裏通りなどはウンチョスだらけになる。
裏通りを歩いていて、数メートル先の扉が開いたと思ったら、自分より大きい真っ黒なドーベルマンが出て来て、目の前でウンチョスしたこともある。
また、レストランなど屋内施設でタバコ禁止の法律のできたイタリアでは、タバコは外で吸い、その吸い殻は路上にポイ捨てが当たり前。きれいなお姉さんが、火のついたタバコを指でピンっと弾き、車道に捨てるシーンを見ると、かっこいいのかかっこ悪いのか微妙な感じだ。路上のゴミやふんは毎朝清掃車が掃除するので、たまることはないのだが、吸い殻や紙くずだらけの世界遺産の街もどうかと思う。

さて、フィレンツェ最後の日、せっかく早起きしたのだから、ドゥーモに登ることにする。akimoも誘ったが断られた。
「えー?!なんで仕事の前に登らなきやならないんだよ!」
ごもっともです。みんなはこの街が日常なんだよね。


ドゥーモが見えた!

ドゥーモには歩いて五分ほどで到着。まだ入場開始10分前なので辺りを少しうろうろする。こんな朝早くにドゥーモ付近にいるのは、ほとんどがツアーの日本人。ツアコンが折り畳み傘をハタ代わり立てて、なにかを説明している。そしてすぐ近くも似たような、と思ったらアメリカ人ぽいグループだった。最近はそんな日本スタイルも真似されているのだろうか。

8:30になると、警備員が手招きをしてくれた。6ユーロを払ってチケットをもらい、ゲートを通る。ここからひたすら石の階段。これがクーポラまでの階段かあ、などと感慨深く感じたのも最初だけ。はあはあと呼吸が苦しくなり汗だくで階段を一歩一歩登る。階段は落書きだらけ。日本語も目立つ。あきらかに新婚旅行みたいなラブラブなものから、
『我ら三人、ここに立てり! 〇〇〇夫、〇〇〇子、〇〇〇太郎』
とヤケに達筆のものもある。これは、明らかにいい大人だよねぇ。



数年前にフィレンツェに来た時、ドゥーモに登らなかった。それは『冷静と情熱のあいだ』のおかげで、日本人が大行列だったからである。あの行列の中に入ってまで登る気はなかった。すぐ隣りにある、鐘が釣ってあるジオットの塔はなぜだか人は少なくてそっちに登ったのだ。ジオットの塔は、また素晴らしいものであった。そんなことを思い出しながら一歩一歩階段を登る。

最後にクーポラの急斜面をのぼって誰もいない頂上にでると、そこには朝日を浴びた美しいオレンジの街が広がっていた。ここで“順正”はどんな気持ちで“あおい”を待っていたんだろうか?・・・・実は俺も読んだんだよね、『冷静と情熱~』(笑)
フィレンツェの眺めを五分ほど独占し、数枚の風景とセルフの記念写真を撮ると、老夫婦と、数人の若者が登って来た。ただでさえ狭いのにその上、修復工事中なのだ。すれ違うのも気を使う。僕は十分満足したので降りることにした。




部屋に戻るとakimoはまだ布団でごろごろしていた。
「ハラ減ったぞーパスタ食べたいなー!」
「えー、俺パンでいいから誰かに作ってもらいなよ」
と押し問答していると
「僕が作りましょうか?たまごあるし、昨日の残りのチーズでカルボナーラでも」
同居人のsatoちゃんの優しいことば。
「わーい!!」と喜ぶ僕を見て
「朝からカルボナーラかよ!?そんなん、とんこつラーメンみたいなもんだよ」
とあきれ顔のakimo。いいのだ。僕は博多に遊びに行くと朝からとんこつラーメン食べるんだから。
satoちゃんの作ってくれたカルボナーラは、なんでこんなにうまいの?!と言いたくなるくらいうまい。もう大満足です。


おいしそうでしょ?うまいんだから!


akimoはその後、仕事に出かけた。僕は荷物の整理をしながら思った。いつもこの小さなトランクで旅行するんだけど、行きも帰りもパンパン。このサイズなら手荷物になるんだけど、毎回重量オーバーで預けることになる。それなら最初から中型にすべきではないか?今回もパジャマやタオルは残して、下着は捨てていくのに、トランクは気合いをいれないと閉まらない。そんなたいしたおみやげ買っていないのに。そこんとこは次の旅の課題だな。
その後、お世話になったこの部屋を軽く掃き掃除をした。せめてものお礼のつもりで。

それが終わってコーヒーを飲んで一服すると11:30。
飛行機は20:45出発、2時間前に空港に到着したいから18:30。フィレンツェからローマ・テルミニまで三時間、テルミニから空港まで30分だから、15:30までにここを出れば間に合うかな。ストや遅れの多いイタリアの鉄道がそんなにうまく行くか不安だったけど、まあなんとかなるだろう。

そこで残り時間は、みんなに食事をおごることにした。
最後にお世話になったsatoちゃん、seikoちゃんなどを連れてakimoの店まで歩いていく。
ホントにこの旅は天気に恵まれた。少し歩くと汗ばむ陽気が続いた。そういえばロンドンの時も一週間、ずっと晴れだった気がする。
トラットリアAdaに着くと、お店のお姉さん、僕のコト覚えてくれていたみたいで、「チャオ!」とわざわざ外まで出迎えてくれた。ムール貝の炒めやポルチーニのリゾット、ブロッコリーのクリームパスタなどと、ステーキをみんなで食べた。ステーキは1000グラムを注文した。でっかい骨つきだから、以外と食べられるよ、と言われたけどやっぱり多かった。でもとてもおいしかった。




南アでは 『お勘定してよ』ってウェイターに合図する時、指先をまっすぐ伸ばしてTの字を作る。これはスマートでいいなぁと、感じた僕は日本でもマネしてやっている。ほとんど居酒屋だけど、大抵わかってくれる。
はたしてイタリアでも通じるか?
サインを出すと気がついたお姉さん、にっこり笑って僕らのテーブルに近付いてきた。おっやっぱり通じるねぇと思ったら、早口なイタリア語でなにかをseikoちゃんに尋ねた。
「なんだって?」
「うん。お勘定でいいかって」
お姉さん、確認しに来たみたい。

四人で100ユーロちょうど。ビール飲んで山盛りのステーキ食べたのに以外に安い。まけてくれたのかなあ。

お店はCampo di Marte駅のすぐ近くにある。切符を買うのに少し手間取った。15:39発のユーロスターはフィレンツェ駅からでここからではなかったのだ。15:07に乗れば一駅でフィレンツェに着く。
akimoが15時から休憩に入るから見送るよ、と言ってくれたが間に合いそうもない。satoちゃんたちに見送られ電車は静かに動き出した。


テルミニ駅に無事到着。


フィレンツェから乗るユーロスターの出発が10分ほど遅れたが、驚くほどすんなり空港に着いた。二時間前には登場手続きもすまた。しかし、出国ゲートの係官、携帯のメールに必死で、僕の顔を一度も見ずにパスポートにスタンプした。

帰りのJALは快適だった。三人掛けのシートに二人だし、隣りの女の子は明るくて話していて楽しいし。
映画がオンデマンドでないのとヘッドレストが曲がらないくらいが難点だが、隣りがいなければ、それほど気にならない。

食事後、少し寝ようと目隠しをした。
・・・気がついたら9時間も寝ていた。かなり熟睡していたみたい。見たい映画があったのであわててヘッドホンを取り出した。もうすでに日本まであと少しのところだった。




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